魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第二章2.5
大鴉(レイヴン)。
ハスクリーの銃口(じゅうこう)から守るように、主人の前に舞い降りる。
さっとかまえたのは細いナイフだ。
レイヴンを取り押さえようと、ハスクリーの仲間たちがいっせいに動いた。
船の中にいた顔ぶれだけでなく、そこらで集めたごろつきのような連中も混じっている。
レイヴンひとりでは、多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)だと思われた。
しかしもうひとつの、つむじ風が吹いた。
アーミンが、すぐそばにいた男を一撃で蹴り倒したのだ。そのままナイフを片手に、レイヴンに加勢する。
彼女の男装は、動きやすさのためなのだと納得しながら、リディアはあっけにとられていた。
青騎士|伯爵(はくしゃく)と、謎めいたふたりの家来は大鴉(レイヴン)に白貂(アーミン)? それこそ、おとぎ話めいている。
いつのまにかエドガーが、リディアのそばにいた。と思うと、ぐいと腕を引く。
その瞬間銃声が鳴って、足元の地面に穴があいた。
さっとレイヴンが身をひるがえす。高く蹴り上げた足が、ハスクリーの腕からピストルをはね飛ばす。
そのままくるりと向きを変え、エドガーを背後にかばいながら、向かってくる男たちを確実にかわしていく。
「エドガーさま、この先の角に辻(つじ)馬車が」
「ここをまかせてもいいか?」
「お気をつけて」
簡潔な言葉がかわされると、エドガーはきびすを返し、リディアの腕を引いたまま走り出した。
馬車にともる明かりが、夕闇の奥にちらりと見える。しかしリディアは、もつれたスカートのすそに足を取られ転ぶ。立ちあがろうとする彼女の鼻先に、サーベルの刃先が突き出された。
「彼女はこちらにもらうと言ったはずだ。ジョン、どうあがいてもおまえは、ゴミだめで死ぬのが似合いのごくつぶしだ」
ジョン、て誰?
ハスクリーがリディアをつかまえる。
どうして、と彼女は頭にくる。誰も彼も、あたしをだまして、脅(おど)して、どうしてこいつらの思い通りにならなきゃいけないの?
ハスクリーが刃物を持っていようと、頭に血がのぼればどうでもよくなった。無我夢中で、リディアは暴れ、抵抗した。
「ゴッサム、やめろ!」
エドガーが叫ぶ。指に噛(か)みついたリディアにハスクリーが逆上したのか、サーベルを振りあげたのだ。
エドガーに突き飛ばされながら、刃先が彼をかすめ、上着の肩口を裂くのをリディアは見ていた。
エドガーは苦痛に眉をひそめる。
ハスクリーが再び踏み込んでくると、怪我(けが)を負いながらも、エドガーはステッキを振った。
杖から引き抜いた剣(レピア)がしなる。ハスクリーのサーベルと鋼が交わり、からめ、はね飛ばす。そのままの勢いでそで口を切り裂かれ、ハスクリーはあわててエドガーから距離を取った。
再びエドガーはリディアを引きずり走る。ようやく辻馬車を見つけると、彼女を押し込むようにして乗り込んだ。
「あ……あなた誰よ! ジョンって? ゴッサムって……」
わめき立てかけたリディアの口を、彼は乱暴に手でふさいだ。
「出してくれ、早く」
エドガーの怪我も、あきらかに連れ去られようとしている状況で押さえつけられている少女の存在も、紙幣(しへい)を押しつけられた御者(ぎょしゃ)は詮索(せんさく)しなかった。
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