魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第六章6.3
「きゃーっ!」
落下に驚き、おもいきり悲鳴をあげた。そうやって、胸にたまっていた鉛(なまり)のような空気をすべて吐き出してしまったからか、リディアは少し落ち着きを取り戻す。息苦しさがやわらいでいる。
「そうだ、あわてないで、ゆっくり呼吸をするんだよ」
蝋燭明かりの届かない、まっ暗な場所で、彼女を抱きかかえているエドガーの声がした。
どうやら落ちたのはほんの少しの距離だ。
延々と続いてきた階段は、それで終わりのようだった。
「エドガーさま!」
「大丈夫だ、レイヴン」
こちらに駆け寄ってこようとしている蝋燭明かりに向かって、エドガーが言う。
「リディア、怪我(けが)はないか」
「……ええ……」
それもそうだ。エドガーにかかえ込まれていたのだから。
「あの、あなたは……」
「なんともないよ。数段の高さで助かった」
蝋燭の明かりが届くと、彼はリディアを離し、気遣(きづか)うように見おろしながらやさしげに微笑(ほほえ)んだ。
「まだ息苦しい?」
「少しおさまってきたみたい」
「空気を吸いこみすぎてたんだ。きっと緊張してたうえに、この暗闇の圧迫感にまいってしまったんだろう」
そう言われて、リディアは思いのほか緊張を強(し)いられている自分に気がついた。
「あんなことがあったばかりなのに、平静でいられるわけないよね。無理をさせてごめん」
アーミンが死んだことを言っているのだとわかる。リディアもあのとき、もう少しで落ちるところだった。それはそれで、ショックなできごとだったけれど、それよりもずっと、彼女を緊張させていることがある。
自分は怯(おび)え続けているのだ。
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