魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第七章7.5
「ああ。想定外のお人好しと一緒にいると、想定外のことばかり起こる。ちっともこっちの思い通りにならないし、どうにも調子は狂うし、死ぬ思いをするってことがよくわかった」
しかし、にやりと笑って答えるエドガーの方が、もっとかわいげのない返事だ。というより、ケンカを売っているのかと勘(かん)ぐりたくなる。
「ちょっと待ってよ、あたしがどうしようもないお人好しだって、バカにしてるの?」
「まさか。心から感謝しているよ。それと、ちょっとばかりうぬぼれたくなるな。きみは僕のことを、どうしても見捨てられないんだね」
艶(つや)っぽい目で覗(のぞ)き込まれ、リディアはますますたじろいだ。
「は……、勘違いしないでって言ったでしょ」
「でもね、自分を殺そうとしていた男を助けに来るかな、ふつう。これが勘違いじゃなくても、僕としては大歓迎だけどね」
「あ、あたしはね、あなたに反省させたかっただけ! なのに、助けてあげたのにその不遜(ふそん)な態度は何なの? だいたいね、想定外だとか、人が思い通りになるとか思うことじたい大間違いなの。その神経がどうかしてるってことよ」
「いちおう、きみを信用させるツボははずしてなかったと思うけど。本当のことを知らなかったら、とっくに惚(ほ)れてたでしょ?」
はなはだしいうぬぼれだと頭にきても、優雅な笑みに惑わされそうになる。こいつってば本当に、どうしようもない。
「あなたってやっぱり、傲慢(ごうまん)な悪党だわ。いいところもあるかもなんて大間違いね。いい、あたしあなたのこと許してないし、許す気もないから!」
さっとリディアは、彼のそばをすり抜ける。
「待って」
「今さら取り繕(つくろ)ったって……」
「剣は置いていってくれ。メロウとの約束が守れなくなるからね」
さすがにリディアはブチキレた。
宝剣を、乱暴に放り出す。
「これさえ手に入ればいいんでしょ。これで仕事は完了ですからね、二度と顔も見たくないわ。金輪際(こんりんざい)あたしにかかわらないでちょうだい! わかった?」
降参するように、エドガーは両手をあげる。そんなおどけたしぐさも、バカにされている気がして腹が立つ。
さよならっ、と息巻いて、リディアは彼に背を向けた。
警官と話し込んでいた父を引きずり、民家を出る。
「父さま、早く帰りましょ。いやなことばかりだったから、さっさと忘れたいわっ!」
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