魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第七章7.5
駆け込んできたのは、今度はカールトンだ。レイヴンも一緒だった。
「父さま!」
リディアは父に駆け寄り、抱きついた。
お互いの無事を心からよろこび合いながら、エドガーとレイヴンがしっかり手を握り合うのを視界の隅で眺めていた。
たぶん彼らにとっては、手放しでよろこべる結末ではない。アーミンを失った悲しみは大きいだろう。
けれどリディアは、エドガーに殺されることはなかった。アーミンの死が、父のために必死だったリディアの気持ちをエドガーに教えたのかもしれない。
だからたぶん、エドガーがリディアを切らずに自分の血を流したのは、宝剣に星がないことを絶望しただけではないのだと思う。
すべてがうそではないのかもしれない。
自分を剣で傷つけながら、リディアにはうそがつけないと言ったことも。
できるなら人を傷つけたくないと思う気持ちも、エドガーの本音だったから、リディアと父を助けるという約束を、あのとき守ろうとしてくれたのだ。そう思いたい。
「おいリディア、外へ出てみろよ」
ニコの声に、ようやく父から離れる。
カールトンは、娘との再会の抱擁(ほうよう)が終わるのを待ちかまえていた警官に、さっそく質問責めにされる。ゴッサム兄弟をレイヴンと一緒に縛り上げ、城の門柱にりつけてきたと、父が話すのを聞きながら、リディアは建物から一歩外に出た。
目の前には海岸が広がっている。
この島へ来たときとはうって変わって、おだやかな波が浜辺に打ち寄せていた。
小妖精(ブラウニー)が丸太の船を漕(こ)ぎ出すのが見える。
これからは彼らも、昔のように陸と島を自由に行き来できるようになるだろう。
ブラウニーたちに礼を言ってくると、ニコが駆け出していくのを見送って、リディアは再び家の中へ戻る。
暖炉(だんろ)のそばに立てかけられた青騎士伯爵の宝剣を手に取れば、深く碧(あお)い海色の、サファイアの中心に輝く、十字の星がまぶしく見えた。
「不思議なものだね。やっぱり僕には、すべて夢だったかのように思えていたんだけど、この宝石は現実だ」
いつのまにか、エドガーがそばにいた。
そんなふうに距離をつめられると、ついさっき抱きしめられていたことを思い出し、妙に意識してしまう。エドガーにとってはあれも、夢の中のできごとのように感じるのだろうけれど、リディアにとっては完全に現実の記憶だ。
「それで、少しは反省したかしら?」
恥ずかしさを紛らすためとはいえ、かわいげのない口調だと自分でも思った。
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