《伯爵与妖精》卷二:小心甜蜜的陷阱第一章1.2
「はい。来月ロイヤルオペラハウスへお出かけになるためのものです」
「オペラ? 聞いてないわ」
「では近いうちにお聞きになるでしょう。それ以外にも今後、相応の場所へ出るためには必要になるだろうと、いろいろそろえさせております。いえ、お気を悪くなさいませんように。これは当家から支給される備品のひとつですので」
「あの、でも、相応の場所って? あたしの仕事には関係ないでしょう? だいたい、勝手にオペラの予定なんて入れられても困るもの」
どのみち彼にとって、女の子は自分を引き立てる装飾品だ。そう感じているから、花束のプレゼントも華やかな場所に連れ出されるのも、リディアは反発をおぼえるのだ。
「あなたがそのようにおっしゃった場合、わたくしにドレスを着せてオペラハウスへ引っぱっていくとエドガーさまは申しておりました。どうかこの老人を憐(あわ)れんでくださいませ」
単なる脅(おど)しとも言い切れないのがエドガーだ。リディアは頭をかかえたくなった。
「ねえトムキンスさん、あのエドガーにつかえてて疲れない?」
もともとこの伯爵家の執事を勤めてきたという家系の彼は、三百年ぶりに現れた当主として、エドガーに嬉々(きき)として仕えているが、あの軽薄(けいはく)な若造(わかぞう)に満足しているのだろうかと不思議に思う。
「リディアさん、執事を振り回してこそ主人なのですよ。主人の無茶をいかにさばききるかが執事の資質というものです」
「……勝負の世界なのね」
にこりと微笑(ほほえ)む彼は、やりがいに燃えている様子だった。
「でもあたしは、エドガーと勝負なんかごめんだわ」
リディアはショールを羽織(はお)り直し、仕事部屋を出る。
「どちらへ?」
「自由にしてていいんでしょ? 少し外を歩いてきます」
ここでじっとしていたら、エドガーの思い通りにされている自分に苛立(いらだ)ちそうだ。
「今日も午後から霧が濃くなりそうですよ」
「わかるの?」
「ええ、湿気で背中のひれがうずくのですよ」
「じゃあ、それまでには戻ります」
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