《伯爵与妖精》卷二:小心甜蜜的陷阱第一章1.4
都会は物騒(ぶっそう)なところだ。
昼間でもひと気のないところは危険だなんて思わなかった。
人込みではスリやひったくりに気をつけなければならないし、かといって人の目がなければ、強盗や変質者が隙(すき)をねらっている。
ロンドンの地理に慣れないリディアなど、ひとりでふらふら歩いていれば、目をつけられても不思議ではない。
だからといって、レイヴンが自分のあとをつけていたというのは、リディアにとって気持ちのいい話ではなかった。
エドガーの忠実な召使いは、猛獣(もうじゅう)みたいな殺人鬼でもある。リディアにとっては、得体の知れない部分が多い。
しかし得体が知れないのは、彼を従えているエドガーにしても同様だった。
「リディア! よかった、無事だったんだね」
花だらけの仕事部屋へ駆け込んできたエドガーは、大げさにそう言って、さっとリディアの両手を取った。
眉(まゆ)をひそめるしかないリディアに、無邪気(むじゃき)なほどにっこり微笑(ほほえ)みかけるが、彼の内面に無邪気などという部分はあり得ない。
リディアは急いで手を振り払った。
「ええ、助かったわ。あなたがレイヴンにあたしのあとをつけさせたおかげでね」
せいぜい嫌味っぽく言ってやるが、エドガーにはまるきり通じなかった。
「役に立ててよかったよ」
「じゃなくて、どういうつもりなのよ! 変質者が現れなかったら、あたしが何も知らないうちに、どこで何をしてたかレイヴンが逐一(ちくいち)あなたに報告してたってことでしょ?」
「そんなつもりはないよ。純粋に、きみの護衛をさせただけだ」
本当かしら。
いかにも心配そうにこちらを見おろしている彼を、リディアは観察しつつにらみつけてみたが、端整(たんせい)な顔立ちとあまい色をした灰紫(アッシュモーヴ)の瞳はいつも、彼のたくらみを隠してしまう。
エドガーはリディアにとって、「よくわからない人」のままだ。
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