《伯爵与妖精》卷二:小心甜蜜的陷阱第一章1.9
「それでは意味がありませんか? マール夫人。あなたが人に訊ねてまわるように、リディアは妖精に訊ねることができます。ドーリス嬢の身に起こったことが、ひと気のない場所でのできごとなら、妖精だけが見ていたかもしれない」
エドガーがそっと声をかける。どうやらその説明は、彼女を元気づけたようだった。
「ええ、そうですね。どうか、ミス·カールトン、よろしくお願いします」
リディアは恐縮しつつも頷(うなず)く。
エドガーは彼女に片目をつぶってみせた。助け船を出してくれたのはわかるけれど、深刻な場面で緊張感がないというか不謹慎(ふきんしん)というか。
しかしフェアリードクターのことを、不思議とエドガーはよく理解している。彼自身が、もともとリディアに、不思議な力よりも妖精に関する知識を期待していたせいかもしれないが、最初から、過度にめずらしがったり恐れたりもしなかった。
悪党だとわかっていても彼を突き放しきれない理由は、こういう部分にあるのだろう。
なにしろこれまで、リディアの能力を正しく受けとめてくれる人はいなかったから、それだけでエドガーの欠点には目をつぶってしまいがちになる。
そんなだから、振り回されてしまうのだろうか。
「伯爵、ありがとうございました。妖精だなんて笑われそうな話を、親身に聞いてくださったのはあなただけです」
マール夫人は、いくぶん落ち着きを取り戻した表情でエドガーの方を見た。
「そのうえ、フェアリードクターなら何とかしてくれると励ましてくださって。妖精のことなんて、わたしなどにはどうすることもできませんもの」
え、エドガーから言い出したの?
さすがにリディアは怪訝に思う。
どう考えても彼は、今回のことが妖精のせいだと感じてはいない。妖精卵の占いを、不思議なことは何もない遊びだと断言していた。それなのに彼の方から、フェアリードクターが何とかすると持ちかけるなんて、無責任ではないか。
なんとなく、意図的にリディアをこの件に引きこもうとしているような。
「とんでもない。ドーリス嬢とは面識がありますし、僕としても心配ですからね」
にっこり笑う彼に、リディアは不信感いっぱいの眼差(まなざ)しを向けた。
考えてみればこいつが、純粋な人助けなんてするだろうか。
それとも、女性の前でいい人を演じたいだけ?
何だかわからないけれど、都合よく利用されている気分になる。
もしかしたらまた、犯罪まがいのことをたくらんではいないだろうか。
そのときリディアの頭にふと浮かんだのは、こいつが犯人じゃないか、という、根拠はないが法を犯すことなんてどうとも思っていない、もと強盗に対する疑いだった。
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