《伯爵与妖精》卷二:小心甜蜜的陷阱第一章1.9
「ということは、もし妖精の機嫌をそこねたりすると、連れ去られるなんていうこともあるんでしょうか」
「そうですね……、ないとは言えませんけど、霧男(フォグマン)はコインの遊びに加わるような妖精じゃありませんわ。悪意のかたまりみたいな、魔物といっていい精霊です。人と取り引きなんかしません」
まあ、と驚きの声をもらし、夫人は身震(みぶる)いした。
「ねえエドガー、妖精卵の遊びで、霧男が罰を下すなんて本当?」
「さあ、僕が加わったときは、霧男なんて言葉は出てこなかった。ただの『妖精さん』。女の子たちが心配する罰も、そんなたいしたことじゃなかった気がする」
「……そうよね。でなきゃ遊びにならないもの。となると、妖精卵の遊びと霧男が、ドーリス嬢の言葉でだけどうして結びついているのかが気になるわ」
「でもリディア、もっと別の、いたずら好きな妖精が連れ去る可能性はあるわけだ」
「それは、今の時点では何とも」
「じゃあどうする? これはきみの仕事の範囲かい?」
妖精の仕業(しわざ)か人為(じんい)かを見極めるのも大切なことだ。リディアは迷わず、夫人の方に顔を向けた。
「もちろん、調べてみます。少しでもお役に立てるなら」
「あのう……」
ふと、マール夫人は怪訝(けげん)そうに口をひらいた。
「今ここで、妖精を呼びだしてお嬢(じょう)さまの行方(ゆくえ)を訊(たず)ねるとか、水晶玉に問いかけるとか、していただけないのですか?」
どうやら、フェアリードクターの役目が、霊媒(れいばい)や占いと混同されているらしい。
「ええと、あたしには、魔法のように謎を解いてみせることなんてできません。妖精に関して少し詳しいというだけで、妖精が残しているかもしれない手がかりを探すことができるだけなんです」
これには、マール夫人は落胆(らくたん)したようだった。
その様子に、リディアも落ちこむ。
彼女は答えを求めてここへ来たのだ。でたらめでも何でも、不思議な力を持っているという人物に、男爵令(だんしゃく)嬢が今どこでどうしているのか、そこはこの世なのか別世界なのか、はっきり示してもらえると期待していたのだろう。
神秘的な力を依頼人の目の前で披露することはまずない、フェアリードクターは地味な能力だから、なかなか理解してもらえず、あてにしてもらえない。
だからいつも、変わり者という目で見られるだけ。
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