《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.2
「旦那(だんな)さま、アシェンバート伯爵がお見えです。お嬢さまにご用だそうですが」
「えっ、やだ、追い返して!」
反射的にリディアはそう言う。
「リディア、伯爵を門前払いにするわけにはいかないだろう。こちらにお通ししてくれ」
父がそう言うのはもっともなことだが、リディアは脱力感を覚え、ぐったりと椅子(いす)にもたれかかった。
エドガーが本物の伯爵ではないことは、カールトンも漠然(ばくぜん)と気づいているだろう。しかし紋章院(もんしょういん)に認められた以上、彼を伯爵と呼ぶことに問題は感じていないようだ。
カールトンにとって貴族とは、どのみちそういう、得体の知れない人種だからだ。
そういうわけで彼は、フェアリードクターとして認められたいと願うリディアが、伯爵家に雇われることも、黙って許してくれた。
もともと断りようのない雇い方だったが、リディアにとって条件に問題はなく、考えた末に自分の意志で受け入れたつもりだ。
それを認めたからには、エドガーはカールトンにとって娘の雇い主であり伯爵であり、敬意を持って接するべきだと考えているのだろう。
ややあって、カールトン家の居間に現れたエドガーは、相変わらず優雅ないでたちだった。
そのまま夜会に出かけるのではないかというふうな、黒のイブニングコートにワインカラーの色鮮やかなジレ。だが何よりも彼を目立たせるのは、明るい金髪と天使の微笑(ほほえ)みだ。
中身はたぶん、悪魔だけど。
「おじゃまします、カールトン教授」
「ようこそ、伯爵。いつも娘がお世話になっております」
「いえこちらこそ」
帽子(トップハット)をメイドにあずけ、当たり障りのない挨拶(あいさつ)とともに父と握手を交わすエドガーを横目に、リディアは憂鬱(ゆううつ)な気分で立ちあがる。
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