《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.6
人込みを歩くためにつながれた手を意識しながら、結局黙ってついていく自分は、どうかしているのかもしれない。
うそでもお世辞でも、ほめられればうれしいなんて。
それでもリディアには、エドガーのことを信用しきっていない冷静な部分がある。彼がリディアにかまうのは、利用価値があるからだと思う。
エドガーが自分を好きになるなんてあり得ないという感覚は、彼がどう言おうと根源的なものなのだ。
漠然(ばくぜん)とリディアが思い描いてきた出会いや、惹(ひ)かれ合う理由や、そうしてはぐくむ関係が、エドガーとはまるで重ならないからだ。
とりたてて特徴はないけれど、やさしくて思いやりのある人がいいと思っていた。不器用で、ちょっと世話が焼けるくらいにだらしないところがあっても、いつも寝ぐせ頭でも、妖精が見える自分のことを理解してくれて、おだやかな気持ちで向き合っていけるような人。
たぶん、父のような。
上流英語でささやくあまい言葉や、テイルコートが隙(すき)なく似合うすらりとした体躯(たいく)、動作のすみずみまで洗練された印象や、微笑(ほほえ)めばやわらかく、けれど人を威圧すればぞくりとするほど鋭く、繊細(せんさい)で貴族的な美貌(びぼう)を持った人と、どう考えても釣り合うわけがない。
エドガーだって、自分にどんな女性が似合うのかくらいわかっているはずだし、そもそもリディアは貴族ですらない。
このごろは、お金さえあれば中流の人間が社交界に出ていくし、貴族でも資金がなく、家屋敷を売って借家(しゃくや)暮らしという場合もあるというが、エドガーを見ていると、やっぱり貴族は庶民とは別の生き物だとさえ思う。
「そこだよ、妖精のショーが見られるって触れ込みだ」
エドガーの声に、リディアは、ピンク色をした小屋に目を向けた。
人込みの間から覗(のぞ)けば、中にステージらしきものがあり、男性がカードや花を宙に浮かせていた。
「手品じゃないの」
「目に見えない妖精が、カードを持って飛び交ってるつもりなんじゃないか?」
「妖精なんていないわよ」
「フェアリードクターが言うんだから、そうなんだろうな」
手品がひととおり終わると、ステージ上で妖精卵の販売が始まった。
色とりどりのガラス玉が並べられる。どれにも妖精が入っているのだという。占いのやり方も解説していて、女性たちが熱心に聞き入っていた。
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