《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.7
はっと振り返ったリディアは、エドガーが持っている妖精卵に目を落とす。
「エドガー、それ捨てて!」
「え?」
急いで彼の手からもぎ取る。小屋の外へ放り投げた瞬間、ガラス玉が破裂した。
わけがわからない様子の彼を引っぱって、逃げるように小屋を出る。
見まわすが、妖精の姿はもうあたりには見あたらなかった。
「ボギービーストがいたの」
「ボギー……、聞いたことはあるけど、どんな妖精だっけ」
「意地悪な奴よ。性質は小悪魔。そんなに利口じゃないけど、|悪い妖精(アンシーリーコート)の一種だわ」
「そいつが、さっきから小屋の中で妖精卵を割ってたのか?」
「さあ、手品師があわててなかったから、サクラが割ったのもあるんでしょうけど、ボギービーストが便乗(びんじょう)してたのはたしかだわ」
あれはたまたま現れたのだろうか。それとも、妖精卵と何か関係があるのだろうか。
あるとしたら、ドーリス嬢のことも、妖精とは関係ないと決めつけるのは早計(そうけい)になる。
考え込んだリディアの手を、エドガーが持ちあげた。
「怪我(けが)を?」
投げた瞬間に破裂した、ガラス玉の破片で切ったようだ。指先に血がにじんでいる。
手袋を取って確かめれば、それほど深い傷ではなかった。
「大丈夫よ。このくらい、舐(な)めておけば治るわ」
言いながら、はっといやな予感を覚えたリディアは、急いで手を引っ込め、エドガーの前からしりぞいた。
「どうして逃げるんだ?」
「なんだかあたし、だんだんあなたの考えそうなことがわかってきたみたい」
「傷を治してあげようと思っただけなのに」
にやりと彼は笑う。
「けっこうです!」
本当に、油断も隙(すき)もないんだから。
早足で歩き始めるリディアに、湖でボートに乗ろうと彼は誘う。
少しなら遊びにつきあってもいいなんて、言わなきゃよかったと少々後悔していたが、薄暗くなりはじめたクリモーンガーデンズは、ガス灯の明かりにきらびやかに彩(いろど)られはじめ、ますますにぎやかな風情(ふぜい)だ。
エドガーがこのまま帰る気になるとは、とうてい思えなかった。
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