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《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.1

时间:2011-10-20 13:00:51  来源:可可日语  作者:ookami

「少なくともそのときはそう信じたほど、まっ暗な場所にいたそうだ。魔法にでもかけられたみたいに、少しも身体(からだ)が動かず、逃げることもできなかった。そしたらそこへ、女の子の姿をした妖精が現れた。きれいなドレスを着た、かわいらしい妖精だった。妖精なんて見たこともないのに、そんなふうに思うほど、彼の意識は夢とうつつの狭間(はざま)にいたんだ。そして彼は、助けを求めようとした。そしたら、リディア、おとぎ話によくある決まり事のように、女の子の妖精たちは、ひきかえに何をくれるのかと言ったそうだ。その少年が持っていたのは、例の妖精の卵だけだった。だからそれを渡した。女の子たちは、助けてあげると言って消えた」
 ふと口をつぐみ、彼は空を見あげる。まだ、花火は上がらない。
「それで彼は、助けてもらえたの?」
「いいや。たぶんね、彼のいた暗闇は、どこかの倉庫だよ。そのまま荷物のように運ばれ、船に乗せられて売られたのさ」
 奴隷(どれい)として売られたエドガーと、同じ場所にいたのだろうか。
「その人はまだ、アメリカに?」
「死んだよ」
「……彼の、妖精の卵を、見つけてあげようと思ってるの?」
「違うよ、リディア。彼を見つけてやりたい。もしかしたら、霧男に連れ去られたまま、誰にも助けてもらえないまま、本当の彼は、いまだ暗闇に横たわっているのかもしれないと思うことがある。そうだったらいい、今なら助けてあげられるかもしれない。ここには、優秀なフェアリードクターがいる」
 死んだ人を助けたいという。エドガーらしくないほど、不思議な言葉だった。
 真意をはかれないまま、リディアは彼をただ見ていた。
「ロンドンの霧に紛れて消えてしまった……、行方(ゆくえ)がわからないままそう語られている少年を、霧の中から引きずり出せたら、死ななかったことになるんだろうか。ねえリディア、助けてやってくれないか?」
 ごく静かな表情でそう語る。そんなことは不可能だとわかっていながら、救いを求めているのは、ふと、同じ境遇にいただろう彼自身であるような気がした。
 ドーリス嬢(じょう)の失踪(しっそう)に、人為的(じんいてき)な事件だと思いながらも霧男の話を重ね、リディアを巻き込んだ理由も、同じところにあるのかもしれない。
 エドガーの過去を知る必要なんてない。けれど彼が、過去のできごとで苦しんでいるなら、傍観(ぼうかん)しているわけにはいかないと思ってしまうのがリディアだ。
「それは、あたしにできることならなんでも……」
 彼がリディアに何を求めているのか、わからないままそう答える。へたなことを言えば、利用し尽くされかねないけれど、彼の苦しい胸の内はうそではないと思うから、リディアは心乱される。
「ありがとう」
 はからずとも間近で見つめ合ってしまった。

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