《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.2
「それより伯爵(はくしゃく)、わたしもそちらにおじゃましたいわ。お友達のリディアさんとふたりきりを楽しんでいらっしゃるのでなければ、せっかくだからご一緒したいのですけど」
この子、エドガーが好きなのね。
それにしても、ずいぶんあからさまに好意を示す女の子だった。横目でちらりとこちらを見る、リディアへのライバル心もあからさまだ。
「ロザリー、失礼だよ」
叔父がたしなめる。
「いいえ、グレアム卿。僕はかまいませんよ」
しかしエドガーが、女の子の申し出を拒絶するわけはないのだった。
「本当に? うれしいわ。おじさまに連れてきていただいたけど、若い方がいないと話がはずまないもの」
「これでも若いつもりなんだが」
「おじさま、そろそろプレイボーイは返上(へんじょう)して、身を固めた方がよろしくてよ」
苦笑いを浮かべ、彼女の叔父はエドガーの方を見た。
「お言葉にあまえて、伯爵、姪(めい)をおあずけしてよろしいでしょうか。じつのところ、これから用がありまして、そろそろ戻らねばならないと言って彼女を怒らせたところなんですよ」
「ええもちろん、美しいレディとご一緒できるなんて光栄です」
やっぱり、誰にでも同じようなこと言うんじゃない。
ますます挑戦的にリディアを見るロザリー嬢の視線も不愉快で、あがり続ける花火も、このまま楽しめるとは思えなかった。
「ちょうどいいわ、エドガー、あたしは帰ります」
「え、どうして?」
「遅くなると父さまが心配するもの」
彼は少し残念そうに首を振ったが、それだけだった。
「そう、ならレイヴン、リディアを送っていってくれ」
引き止めないのね。
……べつにいいけど。
人形のような美少女は、桟橋にボートをつけると、嬉々としてボートを移り、エドガーのそばに駆け寄った。
あれだったら、いろいろ口説(くど)く手間もいらないんじゃないかと思う。
関係ないわとつぶやきながら、リディアは湖畔(こはん)を離れた。
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