《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.5
「旦那(だんな)さま、お客さまです」
部屋へ入ってきた執事(しつじ)の声に、リディアはほっとさせられた。ようやく、彼の話し相手から解放されるわと思ったところが。
「エドガー、会いたかったわ!」
執事の案内も待ちきれずにか、オレンジのくるくる巻き毛が飛び込んでくる。まっすぐに、エドガーに歩み寄る。
「おはよう、レディ。今日も一段と美しいね」
女王さまみたいな態度で、堂々と手を持ちあげ、挨拶(あいさつ)のキスを受ける。もちろん少女は、リディアのことなど視界に入っていない。
「ねえエドガー、これからワッツ邸でウィーンから来たピアニストの独演会があるの。行ってみない? ワッツ夫人のごく身近な人だけの集まりなんだけど」
「僕がおじゃましてもいいのかな」
「もちろんよ。わたしをエスコートしてくださるなら。それにあなたとは、みんなお近づきになりたがってたもの」
これ幸いと、リディアはそっと部屋を出ようとした。
「そうだ、ロザリー。きみね、ナナカマドの十字架を身につけた方がいいらしいよ。うちのフェアリードクターが言うには、悪い妖精を遠ざけるためだって」
しかし思わず足を止める。そんな言い方をしたら、もろに反発くらうじゃない。
案の定(じょう)、ロザリーの視線がリディアに突き刺さった。
「ちょっと、フェアリードクターさん。変な言いがかりつけないでくださる?」
しかたなく、リディアは彼女に向き直った。
「言いがかりじゃないわ。ボギービーストが身近にいるのは知ってるんでしょ? あれは危険な妖精だわ」
「わたしのしもべよ。わたしを守護してるんだから、わかったようなこと言わないで」
「そんなの見せかけだけよ。あなた妖精のこと、ちっともわかってないわ。あれが身近にいるとよくないことが起こるの。もしかしたらドーリス嬢の病気だって、妖精と関係があるかもしれないし」
リディアが言いたいのは、病気ではなく、行方(ゆくえ)不明の原因だが、いちおうロザリーが話した病気だという説のまま伝える。
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