《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.5
プリンスのもとを逃げ出したとき、エドガーのそばにはレイヴンとその姉のほかにも、何人かの仲間がいた。
しかしプリンスの追跡は厳しく、エドガーは彼らを守りきることができなかった。
「エドガーさま、復讐は、姉や仲間たちのためですか。もしもそうなら、誰も、そんなことは望んでいないのではないかと思います」
かもしれない。けれど、逃亡を計画したのも指揮したのもエドガーだ。彼を信じてついてきた、なのに無残にも殺された仲間たちに何ができるというのだろう。
伯爵の地位を得たエドガーは、もう身元不明のごろつきではない。プリンスも簡単には手出しできない。ならばこのままおとなしく、そして確実に身を守ることに徹すれば、連中とは無縁の、新しい人生を歩めるのかもしれない。
過去を、完全に捨ててしまいさえすれば。
けれど、仲間の犠牲(ぎせい)の上に今の自分があるのに、捨ててしまうことなどできるだろうか。彼らの協力がなかったなら、エドガーも逃亡などできなかったはずなのだ。
「レイヴン、結局、おまえだけになってしまったな」
頬杖(ほおづえ)をつき、つぶやく。レイヴンは突っ立ったまま、神妙(しんみょう)に目を伏せた。
「僕の逃亡を助けてくれた誰も、ここまで連れてきてやれなかった。自由にしてやると約束したのに」
「もうしわけありません」
「なぜあやまる?」
「……誰も、後悔していないと思います。今のあなたを見れば、心から喜んでいると思います。でも、……うまく言えません」
「じゅうぶんだよ、レイヴン」
立ち上がり、彼はレイヴンの肩を抱いた。
十八歳という年齢のわりに小柄に見える東洋の少年、今は彼だけが、エドガーがここにいる理由だった。
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