《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.2
「あなたにこれをくれた人は、どうして貴重な魔法の石を手放したのかしら」
「……何が言いたいの?」
きつい口調でにらまれる。
「ただあたしは、この〝妖精の卵〟が持ち主の願いをかなえるとか、そういうものじゃないと思うから、前の持ち主のことを聞きたかっただけ」
「いいわ、教えてあげる。わたしの前の持ち主は、妖精の恩恵(おんけい)を受けられなかったの。当然よ、石を持ってたって、盗んできただけなんだもの」
「盗んだって、本当なの?」
「そうとしか思えないわよ。だから妖精は私のそばを選んだの。もうすぐ着くわよ、私がこれと出会った場所に。落ち着いて話ができるところよ」
夕刻になって、また霧が出てきていた。馬車が止まった場所は河岸のどこかで、古い建物が並んでいた。
使われている様子のない、倉庫のような一軒へ、ロザリーは入っていく。リディアも続いて入っていくが、ほこりっぽくて蜘蛛(くも)の巣だらけだ。高いところに円窓があるだけで、薄暗くてカビ臭かった。
小部屋のドアを開け、何もない場所でロザリーは立ち止まる。
「八年前、だったかしら。ここに男の子が転がってたのよ。焼けこげた服を着てて泥だらけで、浮浪者(ふろうしゃ)の子供みたいだったわ。それでわたしはすぐにわかったの。この子は悪いことをしてつかまったんだわって」
「え、ちょっと待って。そうとは限らないんじゃ……」
「そうにきまってるわよ。手足を縛られてたし、何も悪いことしてない子がそんな目に合うわけないじゃない。だいたい、下町の溝で寝起きしてるような子が、一度も泥棒をしたことがないと思うの?」
短絡的すぎてあきれたが、自分中心に世界がまわっているのだろうお嬢さまにとっては、それ以外考えようがないのだろう。
「その子はわたしたちに、助けてって言ったわ。あつかましいわよね。でも、その子が握りしめてた石に気がついたから、くれたら助けてあげるって言ってみたけど、こんなきれいな宝石、安物じゃないわよ。どう考えたってあの子が盗んだものでしょ。泥棒を助ける必要なんかないわ。そう言ってやったの」
「その子、怒らなかった?」
「さあ、そんな元気もなさそうだったわよ。そういえばドーリスは、仕返しに来ないかって心配してたけど」
一緒にいたのはドーリスなのか。
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