《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.2
「ドーリスが霧男(フォグマン)を怖がるのは、あの男の子のせいよ。あの子がうなされながら、霧男がどうとかつぶやいてたから、連れ去られちゃったと信じてるのね」
汚い倉庫に、きれいな身なりの少女がふたり。妖精みたいに見えたという……。
考えながらリディアは、少年が横たわっていたという床の上に屈(かが)み込んだ。
ほこりの積もった床板にそっと触れる。
エドガーの過去に触れているような、そんな気分になった。
深い霧の闇から、時間を超えて手を差しのべられるものならば。あたしが。
バカなことを考えている。
そしてふと思う。ここにいたのがエドガーなら、今の彼は、迷い込んだふたりの少女をどう思っているのだろう。
本気で妖精だったと思っているはずはない。そのときは妖精みたいに見えたとしても、あとで考えれば人間だったとわかるだろう。
いずれにしろ彼は、水入り瑪瑙を少女に渡した。彼の出自(しゅつじ)を証明するかもしれない唯一のものを、見知らぬ少女に渡したのは、少女が妖精でも人間でも、そうするしか助かるチャンスがなかったからだ。
けれども助けはなく、自力で逃げ出すまで何年もかかった。
たくさんの犠牲(ぎせい)を払った。
水入り瑠璃を取りあげていったふたりの少女が、ロザリーとドーリスだと彼が知ったら。
……まさか、もう知ってる?
だから、ドーリス嬢(じょう)の行方(ゆくえ)不明に首を突っ込んだ? そしてリディアに、霧男と〝妖精の卵〟の話をした?
え、ちょっと待ってよ。
だとしたらエドガーはどういうつもりでいるのか。ドーリス嬢を捜すのに協力なんてするつもりはさらさらなくて……。
ドアの動く風を感じ、リディアは振り返る。と、視線の先でドアが閉じられ、同時に外で、掛け金のおろされる音がした。
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