《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.2
数件先の曲がり角に、馬車が停(と)められていた。待っていたロザリーに、「乗って」と命令するように言われ、リディアはそのとおりにした。
「伯爵(はくしゃく)家のアラブ人召使いが、石を拾ってあなたに渡したって言ったけど」
レイヴンはアラブ人じゃないのでは、と思ったが、よく知らないので黙っておく。
「ええ、あずかってるわ。でもロザリーさん、あなた、あれが何だか知ってるの?」
「魔法の石よ、何でもわたしの願いをかなえてくれるわ」
馬車が動き出していた。
「どこへ行くの?」
「ゆっくり話ができるところよ。リディアさん、わたしに言いたいことがあるんでしょう?」
ボギービーストの姿は、馬車の中には見えなかった。
「まずは、石を返してくださる?」
もちろん、リディアのものではないのだから、取りあげておくわけにもいかず、ロザリーに渡す。
「ねえ、あなたの妖精はいつからいるの? もしかして、この石を手に入れたときから?」
「いいえ、何年か経ってからだったと思うけど。この石、妖精の卵なのよ。孵化(ふか)するのに時間がかかったらしいけど、妖精はここから生まれてきたの。持ち主に仕えるためにね。そう言っていたもの」
〝妖精の卵〟と呼ばれていても、この水入り瑪瑙から妖精が生まれることはあり得ない。中に入ったものは、自力ではけっして出られないのだから。
そもそもそれが、ボギービーストがロザリーをだまそうとしてついたうそだ。言ってやりたかったけれど、今のところ冷静に話をする気らしいロザリーに、頭ごなしに否定するような言葉は慎(つつし)むべきだと思った。
ともかく、ボギービーストは、この瑪瑙が何か知っていて、ロザリーに近づいた。彼のたくらみは〝妖精の卵〟に関することなのだ。
「あの、ロザリーさん、あなたこれをどうやって手に入れたの?」
と、彼女は急に顔を曇らせた。
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