《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.3
「大丈夫ですか?」
「ええ……、力が抜けて、急にほっとしたものですから」
「あの、でもあたしもここに閉じこめられたんです。今は出口を探してたところで」
「まあ、あなたも叔父(おじ)に?」
「叔父? あなたを閉じこめたのは……、グレアム卿(きょう)なの!」
おろしたままの髪も、地味な服装も、貴族の娘らしさはどこにもなく、やつれた顔つきの少女は、助かったわけではないと落胆(らくたん)したのか木箱の上にふらふらと座り込んだ。
彼女が言うには、正面の扉に鍵がかかっているなら、出入り口はほかにはないとのことだ。この倉庫は、船会社を持っているグレアム卿のもので、昔ロザリーとこっそり探検したことがあるのだそうだ。
少年を見つけたときのことだろうと思ったが、それよりリディアは、グレアム卿のことを聞きたかった。
「じつはわたし、叔父がウォルポール家の財産を使い込んでいることを知ってしまったんです。それで、以前家庭教師だった方に相談しようと手紙を書いたらそれが見つかってしまって……。しばらくは、叔父の部下らしい誰かの屋敷に監禁(かんきん)されていました。でも今朝(けさ)ここへ放り込まれて、外国へ売りとばされるんだと聞かされました。そういうことを以前からやっていたみたいで、……財産に手を出しただけでなく、そんな犯罪まで犯していたなんて……」
「じゃああなたは、ボギービーストのせいで姿を消したわけじゃなかったのね」
「ボギー……?」
「ロザリーさんの妖精です。彼女とケンカをして、妖精に怯(おび)えていたって聞いたの。それであたし、ミセス·マールにお話をうかがって、あなたのことを捜していたんです」
「マール先生が? あの、あなたはいったい」
「リディア·カールトンと言います。アシェンバート伯爵(はくしゃく)家のフェアリードクターなんです。マール夫人は、あなたが話した妖精のことが気になって、伯爵に相談したと言ってました」
「……アシェンバート伯爵家の……」
ほっとドーリスは息をつく。リディアが味方だとはっきりしたからだろう。
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