《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.5
そしてリディアは、足元に転がったガラス瓶(びん)に目をつけた。
スカートのすそで隠し、ふらついた振りをして座り込む。瓶をそっとつかみ取る。
ボギービーストの毛むくじゃらの身体(からだ)、そこから毛を一本でも抜き取って、瓶の中へ入れる。肉体のない妖精は、毛一本だって魂そのものだ。毛を取り返しに瓶の中へ入ったところで、ふたをして閉じこめてやるつもりだった。
たかが小瓶、永遠に閉じこめておけるわけではないが、しばらくは時間が稼(かせ)げるだろう。
(どうした、フェアリードクター? 霧男さまと聞いて恐れ入ったか)
「……そんな、恐ろしい妖精……、あたしはかかわりたくないわ……」
リディアはわざと、怯(おび)えて泣くふりをする。
(ま、フェアリードクターったっておまえみたいな小娘じゃ、相手にもならないわな)
威張(いば)りくさったボギービーストが、リディアに近づいてくる。薄気味悪いにやにや笑いを浮かべ顔を覗(のぞ)き込もうとする。
いまだ、とリディアはボギービーストにつかみかかった。
が、それはするりと身体を縮め、ネズミほどの大きさになってリディアの腕をすり抜ける。
あっと思ったときにはもう、リディアの髪の毛をつかんだボギービーストは、抜き取った髪をガラス瓶の中に放り込み、ふたをしてしまった。
急に気を失い、倒れたリディアに、ドーリスが駆け寄る。
「リディアさん、どうしたの? しっかりして」
けれど、ドーリスがいくら呼びかけても、身体をゆすっても、リディアは目覚めない。
ボギービーストを閉じこめるはずだったのに失敗した。
逆にリディアの魂を、妖精が瓶の中に閉じこめてしまったのだった。
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