《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.7
「わたしに何かあったら……、あの子は誰にも見つけられないわよ……」
「そう」
言った彼は、ふと首を動かし別の誰かに呼びかけた。
「窓を開けてくれ」
ロザリーはそのときはじめて、褐色(かっしょく)の肌の召使いが部屋の隅にいたことに気がついた。
エドガーは、彼女を窓辺へ引きずっていく。
「や、やめて! 何をするのよ!」
「話す気がないなら、きみに何かあったとしても僕にとっては同じことだ」
何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、彼はロザリーののどをつかむ。苦しむ彼女を窓から押し出そうとする。
「ワインで酔って、羽目をはずして転落、ってところかな」
殺される。本気でそう思ったロザリーは、我を忘れて泣きわめいた。たぶん、リディアにしたことをわめきながらしゃべったはずだ。
いつのまにか、床に座り込んでいた。すすり泣きながらも、身体(からだ)の震(ふる)えはとまらなかった。
それなのに、強い眠気を感じていたのは、ワインに何か入れられていたのだろうか。
「まるで世間知らずのお嬢さん。きみのために世界がまわっていると信じられるのは、無知だからだって学んだ方がいいよ」
さっと外套(がいとう)を羽織(はお)った彼は、召使いと部屋を出ていこうとする。
「そうそう、ワインもここにあったものだからね。何が入ってたのか知らないけど」
いやだ、怖い。このままここで倒れていたら、おじさまが来て……。
けれどロザリーを置き去りにして、金髪の悪魔は立ち去った。
昔、こんなふうに無慈悲(むじひ)にも、彼女が置き去りにした少年の金髪が、なぜだかふと思い浮かんだ。
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