《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.7
ウォルポール男爵邸(だんしゃく)の小間使いが、ひそかに頼まれたとロザリーの部屋へ持ってきた手紙は、エドガーからのものだった。
会いたいという言葉ひとつに、有頂天(うちょうてん)になった少女は、貴族たちが利用することで有名なホテルへとひとりで向かった。
ロンドンにタウンハウスを持たない地方貴族が、長期滞在するために使うことが多いが、そうでなくても、隠れ家のように借り切っている貴族も多い由緒(ゆいしょ)あるホテルだ。
ロザリーが案内された部屋も、落ち着いた家具に囲まれたゲストルームだった。
金髪の伯爵(はくしゃく)が、彼女を出迎える。彼の笑顔に、勝ち誇った気持ちになる。
「驚いたわ、急に会いたいだなんて」
「どうして? 僕がきみに夢中なのは気づいているんだろう?」
灰紫(アッシュモーヴ)の瞳に切なげに見つめられれば、彼女は心ときめいた。
「でも、お別れしてから数時間しかたってないのに」
「数時間もたったんだよ。それに、もっとふたりきりで話をしたかった」
妖精の言ったとおりだ。言うとおりにすれば、思い通りの幸運が訪れた。
彼がささやく心地のいい言葉に身をゆだね、勧められるままにワインを口にし、ロザリーはすっかりいい気分になっていた。
リディアとかいうあの子、エドガーが危険だなんて、そんなはずないじゃないの。
少しくらい危険な男だって、魅力的な女の前じゃ忠実になるものよ。
「じつはね、きみに渡したいものがあったんだ」
「あら、何かしら?」
天鵞絨(びろうど)のケースを開けると、ルビーのネックレスが入っていた。
「まあ、これをわたしに? こんなに高価なもの、いいのかしら」
「気に入った?」
「ええ、もちろんよ」
「なら、リディアの居場所を教えてくれ」
聞き間違いかと思った。エドガーは相変わらず、恋した女性を眺めるように、やさしくロザリーを見つめていたからだ。
「……何ですって?」
「知っているんだろう? リディアがどこにいるのか。まだきみと一緒にいるかと思ったのに、男爵家の小間使いは、きみはずいぶん前に家に戻っていてずっとひとりだという。でもリディアは、きみと会ってから行方(ゆくえ)知れずだ」
急に頭に血がのぼった。侮辱(ぶじょく)されたとばかりに、ロザリーはネックレスを投げ返した。
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