《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.3
ガラスを撫(な)でる繊細(せんさい)な指を眺めていれば、リディアは自分自身に触れられているような気がしていた。
エドガーには憤(いきどお)りを感じているはずなのに、子供みたいに頭を撫でられて安心している自分を想像している。
リディアを助けようとしてくれているのは、間違いないのだと思う。
敵には容赦(ようしゃ)なく、他人は言葉巧みに利用する。けれど信頼する仲間は、身を削っても守ろうとする人だ。
ただリディアは、ひどく中途半端な位置にいる。
利用されるくらいには他人で、守ろうとしてくれるくらいには仲間。
それもしかたがないと思う。彼にとって身内も同然の仲間は、苦難を分かち合った人たちで、正義もきれい事もない状況を体験した人たちだ。
今はもう、レイヴンしかいない。
思い至れば、自分がおとりにされたことよりも、エドガーの心境にリディアは胸を痛めた。
「ねえ、復讐って、グレアム卿(きさつ)をどうするの?」
どうしようかな、とはぐらかすのは、リディアには刺激が強すぎるようなことを考えているのだ。
「復讐という方法しかないの? 死んでしまった友達にしてあげられることは、それしかないと思ってる?」
「ほかに、何ができるっていうんだ?」
「あなたあたしに、霧に紛れて消えてしまった少年を助けてやってくれって言ったわ」
「あれは……、感傷的すぎたね。いくらフェアリードクターでも、死者を救い出すことなんてできないだろう?」
「そうね。でもあなたは生きてる。あれは、ひとりの少年の話じゃないんでしょう? 何人も、同じ境遇の少年がいたって、レイヴンに聞いたわ。あなたのことも含まれてたんでしょう?」
「どうだろうね」
なげやりな口調に、かすかな苛立(いらだ)ちも混じっていた。自分だけが生きていることを嫌悪(けんお)しているかのようだった。
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