《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.3
伯爵(はくしゃく)家の応接間の、ランプがともるテーブルの上で、リディアはむっつりと黙っていた。
「怒ってるかい?」
美しい黒檀(こくたん)の椅子(いす)に座ったエドガーが、困惑気味にこちらを見ていたが、リディアはひざをかかえて座り込み、そっぽを向いていた。
本当のことを聞かされれば、これが怒らずにいられるだろうか。
最初から、自分をプリンスに引き渡した男への復讐(ふくしゅう)のために、エドガーはリディアを利用していたのだ。
ドーリス嬢(じょう)が消えた原因がグレアムだということも、リディアがねらわれている可能性もわかっていて、あえてリディアをグレアムの目につくように仕向けた。
グレアムが盗品や人身(じんしん)の売買に手を出していることはわかっていたというが、プリンスと取り引きをしている人物なら、フェアリードクターという特殊な才能が、高値で売れると考えるはずだからだそうだ。
クリモーン庭園(ガーデンズ)でグレアムに会ったのも計算のうちだ。
そしてロザリーの好意も、復讐のために役に立つから利用した。
エドガーがあの倉庫へやって来たのは、ロザリーからリディアの居場所を聞き出したからだという。しかしロザリーは、素直に話したわけではなさそうだし、そのへんをエドガーははぐらかしている。
あくまで言葉の断片から、彼は、グレアムがロザリーも売りとばしてしまうだろうと知っていて、彼女を危険な場所に放り出してきたと想像できただけだが、それだってあんまりではないか。
あんなに親しく接しておいて、利用していただけだなんて。人を何だと思っているのだろう。本当に最低。
うそじゃないとか、何も隠していないとか言いながら、人をだます。あまい言葉でいい気分にさせるのも、そうやってだますためだ。
だまされたのはこれがはじめてではないというのに、だからこそ余計にリディアは、少しでも信じようとしてしまうお人好しの自分が情けなかった。
「危険な目にあわせるつもりはなかった。連中には、きみに指一本触れさせないつもりで」
「言いわけは聞きたくないわ」
強く言うと、彼は黙る。
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