魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第三章3.7
何かがつながりかけたとき、メイドがまた来客を告げた。
「ゴッサム氏のご子息だという方がいらっしゃっています」
「なんだって?」
居間を飛び出した教授は、自ら玄関へ赴(おもむ)き、客を招き入れる。
ゴッサム医師の三男だと名乗る男は、応接間のソファに腰をおろすと、こう切りだした。
「父が強盗に撃たれ、入院したのはご存じですね? じつはそのことで、カールトン教授にお知らせしなければならない重要なことがございます」
「メロウの星のことかね?」
三男は少し驚いたような顔をした。しかしすぐに平静を取り戻し、頷(うなず)く。
「強盗は、金ばかりでなく〝メロウの星〟にも興味を持ったのです。教授におうかがいした話を参考に、父は宝石の所在を調査し続けていました。そうして、隠し場所を示すと思われる、伯爵家のコインに刻まれた謎の詩にたどり着いたのですが、それも強盗に奪われてしまいました。詩は、妖精の名前が連なるもので、意味がまるでわからなかったので、父が妖精に詳しい人物を捜しておりましたところ、教授、あなたの亡き奥さまがフェアリードクターだったということを耳にしました」
まさか、と思いながら、カールトンは、汗ばんだ手のひらを握る。
「そうして、現在はお嬢(じょう)さんが、フェアリードクターの看板を掲げていらっしゃるとわかり、ぜひご相談をと考えていた矢先でした」
「ああそういえば」
唐突(とうとつ)にラングレーが口をはさんだ。
「しばらく前にゴッサムさんに道でお会いしたことがあって、教授のお嬢さんのことを聞かれました」
「リディアがフェアリードクターだと、君が話したのかね」
「いえその、まあ、世間話の延長のようなつもりで……。とはいえ僕がお嬢さんとお会いしたのは何年も前のことですし、特徴を聞かれても髪の毛が鉄錆(てつさび)っぽい赤茶としかおぼえていませんでしたが」
もうしわけなさそうにラングレーは言う。
弟子が言ってしまったとしても、カールトン自身、娘のことを隠していたわけではないのだからしかたがない。
「いや、ラングレー君、君のせいじゃない。……それでつまり、娘のことを強盗も知ったと?」
「まことに遺憾(いかん)ですが。それで、もしかするとすでにお嬢さんが犯人の手の内にいる可能性も」
「ああ、それは警察(ヤード)にも聞いたよ」
深くため息をつき、カールトンはうつむく。最悪の事態だ。
三男は微妙に眉(まゆ)をひそめた。
「そうですか。でも警察は、あまりあてにはなりません。今のところ長兄が、強盗犯の特徴を各地の新聞に載せ、賞金をかけて情報をつのっています。そこで教授、ぜひご協力いただきたいのですが」
「私にできることなら何でもするが」
「スカーバラから西へ向かう汽車に、お嬢さんと強盗らしき目撃談がありました。強盗に脅(おど)されて宝石探しに協力しているのだとすると、その方向でお嬢さんが目星をつけそうな場所はありませんか?」
「しかし、私は娘と違って、妖精に詳しいわけではないのだ」
「ですが私どもよりはご存じでしょうし、何よりお嬢さんの安否がかかっています」
まったく、その通りだった。
三男に差し出されたのは、詩を書き写した紙と地図。三百年前に〝メロウの星〟を所有していた、アシェンバート伯爵にゆかりのある場所にしるしをつけたと彼は言った。
リディアなら、どこに向かうのか。
「それから教授、お嬢さんを助けるためにも、ぜひ私たちとご同行願いたいのです」
「もちろんご一緒させていただきたい。今すぐ出発できるかね?」
「ええ、ですが行き先は」
「馬車の中で考えよう」
カールトンが、仕事以外のことでこれほど迅速(じんそく)に判断するのは、弟子のラングレーにとってりもはじめて目にする光景だった。
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