魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第四章4.3
(なあ見たか? あれはフェアリードクターだよ)
(ああ、この町で見かけるのは百年ぶりだよ)
(マナーン島へ行くとか言ってたよ)
(マナーン島へ、ならわしらも帰れるのか?)
(メロウが解放されたら、帰れるぞ)
ざわざわと、小妖精(ブラウニー)がつぶやくのを耳にし、館の庭を二本足でてくてく歩いていたニコは立ち止まった。
「おい、チビども。帰れるってどういうことだ?」
(わっ、なんだ猫か)
「おれは猫じゃない。フェアリードクターの相棒だ」
(なんでもいいけどな。フェアリードクターの仲間なら、メロウを助けるよう言ってくれよ)
「メロウがどうなってるって?」
(ずっと嘆(なげ)いてるんだ。島の主人が帰ってこないからな)
(メロウが嘆くと、海が荒れる。昔はおれたちゃマナーン島に棲(す)んで、陸との間を行き来しながら暮らしてたんだが、メロウのせいで海が渡れなくなっちまった。親戚(しんせき)とはもう三百年も会ってない)
「そりゃ気の毒に。しかしメロウを救うのは、帰ってこないっていう島の主人でなきゃ無理なんじゃないのか?」
(人間のことならフェアリードクターがどうにかできるだろう)
「無茶言うな。まあとにかく、メロウのことは伝えといてやるよ。その代わり、奴らが守っているものについて知りたいんだが」
(守ってるもの? って何だ?)
「帰ってこない主人からあずかったものがあるだろう」
(はあ、そんな話も聞いたような。しかしおれたちゃ、島から離れたきり。向こうのことはよくわからん)
ふむ、とニコはヒゲを撫(な)でて考える。
「向こうに親戚がいるんだな。ならそいつらに聞いてみたい。船に乗っけてやるから、一緒に島へ行かないか?」
(人間の船にか? 乗ってもいいのか?)
妖精たちは色めきだった。昔ながらの魔除けやまじないが忘れられつつあっても、船は海という恐ろしく不可解な領域に漕(こ)ぎ出さねばならないもの。妖精や、目に見えない悪いものが近づかないよう守りが施されていて、彼らは人の船で島へ渡ることはできなかったのだ。
「フェアリードクターに話をつけといてやる。その代わり、親戚におれを紹介してくれ」
約束はすんなり成立した。
あとはマナーン島の小妖精が、貴重なメロウの情報をどの程度持っているかだ。
「リディアってばほんと、怖いもの知らずだからさ」
とニコはひとりごちる。
メロウなんてこれまでに見たこともないくせに、突っ込んでいこうとしているのだ。同行者が本物のメロウの主人、青騎士|伯爵(はくしゃく)ならまだしも、泥棒を連れていってどうするつもりなのか。
「世話が焼けるよ、まったく」
これでもニコは、リディアが赤ん坊の頃から見守っている。のほほんとして日々を過ごしているだけではない。いろいろと陰で支えている、つもりなのだ。
「いっそのこと、メロウが強盗どもを海の中へ連れ去ってくれないもんかね」
そして彼は、薄く開いた窓から館の中へと身をすべらせた。
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