魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第六章6.5
リディアの手に触れていたニコのふさふさした毛の感触が、さっと消え去ったのは、エドガーがこちらへ近づいてきたからだった。
「何か聞こえない?」
「え、何も……。水音じゃないの。ずっと聞こえてるもの」
ごまかしながら、リディアは水音に耳を澄ますと、エドガーがまた言った。
「ほら、女の泣き声みたいなのが聞こえる」
「泣き声……? そうだ、バンシーだわ」
リディアは立ちあがった。
かすかに聞こえるのは、風が岩場を吹き抜ける音なのかもしれない。しかしバンシーの泣き声のようでもあった。
水辺で泣くバンシーの姿が目撃されると、近いうちに人が死ぬという。不気味な妖精の泣き声は、誰の死を予感しているのだろう。
宝剣でエドガーに切りつける。それしかリディアの助かる道はない。
武器を人に向けることなんてできるのだろうか。しかしできなければ、彼がリディアに剣を向ける。
「バンシーというと、次の詩の妖精だね」
「ええ、きっとそれがヒントね」
リディアは壁に耳を押しあてた。風の音がよりはっきりと聞こえる場所を探す。それは三つの通路のうち、真ん中のひとつだった。
ちょうど、レイヴンが右端の通路から戻ってきた。
「ここは行き止まりでした」
「こっちよ。これが正しい道だと思う」
再び三人で進む。
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