魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第七章7.4
「お嬢さん、……お嬢さん、大丈夫ですか」
身体をゆすられ、リディアはうっすら目をあけた。
「ああよかった、気がついた」
知らない男の人がふたり、こちらを覗(のぞ)き込んでいる。民家らしい簡素な一室に、リディアは寝かされていた。
「あなた、海岸に倒れていたんですよ。私たちが見つけたんですがね、この家の方は、あなたには見覚えがない、島の住人ではないというし、もしかするとミス・カールトンでは?」
まだぼんやりとした頭で、リディアは頷いた。
「はい、……そうです。あなた方は……?」
「州警察です。ロンドン市警から、あなたが誘拐(ゆうかい)されこのマナーン島に監禁(かんきん)されている可能性があるという報告を受けまして、調べに来たわけですが」
「二日前にあなたの父上、カールトン氏から、届け出があったようです」
父は、ゴッサム兄弟とここへ向かう前に、どうやら警察に報(しら)せていたようだ。
リディアはあわてて身体を起こす。すぐそばでニコがにゃあと鳴いた。
エドガーは?
「ところで、あなたと一緒に浜辺に倒れていたあの男ですが」
警官が首を動かした方向、戸口が開け放されたままの隣室(りんしつ)に、リディアもつられるように首を動かせば、ベッドにエドガーが横たわっている姿が見えた。
警官は戸口に歩み寄り、不審(ふしん)げにエドガーを眺めた。
「あなたを誘拐したとされる、ゴッサム家強盗犯と特徴が似ているようですが」
「いえあの、それは……」
リディアが戸惑っていると、警官のうちひとりが、暖炉(だんろ)のそばに立てかけられた剣に気がついた。
抜き身のままの青騎士伯爵の長剣は、このありふれた民家にぽつんと置かれていれば、現実離れした洞窟(どうくつ)の中で見ていたよりも、うっとうしいほど仰々(ぎょうぎょう)しい宝剣だった。
「ずいぶん時代錯誤な剣ですな。この物騒(ぶっそう)なものを手に脅(おど)されていたとか……」
「さわるな」
エドガーが隣の部屋で、けだるそうにのそりと身体を起こした。
「それは僕の剣だ」
鋭い気迫におされたのか、警官はとりあえずそれをもとの場所へ戻す。しかし気を取り直したように問いかけた、
「お目覚めですか。失礼ですが、お名前をお聞かせ願えますかな」
「伯爵!」
そのとき、表の扉が勢いよく開いた。
駆け込んできたのは宿の亭主(ていしゅ)、もとい、伯爵家|執事(しつじ)のトムキンスだ。
執事はエドガーを目にとめると、急いで姿勢を正し、ふたりの警官に目礼し、きびきびとした動作で新しい主人に近づきひざまずいた。
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