《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.3
カールトンがラングレーを紹介するのを待って、彼女は口を開いた。
「で、あたしに用って何なの?」
「リディア、いきなり失礼だよ。伯爵、どうぞおかけください。お茶でもいかがですか? リディアが焼いたビスケットしかありませんが」
「それは興味深い。ぜひいただきますよ」
興味深いって、未知の食べ物じゃないわよ。
リディアはかすかに眉根(まゆね)を寄せた。
エドガーは、ふくれっ面(つら)の彼女に微笑みかけ、わざとすぐ隣の席を選んで座る。そこに陣取っていたニコの、首根っこをつかんでどけてまでだ。
憤慨(ふんがい)したニコがきたない言葉で罵倒(ばとう)したが、たぶん猫がわめいたくらいにしか聞こえていないのだろう。
「なるほど、不思議な味がするね」
ビスケットを口にして、エドガーは言う。
「お口に合わないならそう言っていいのよ」
「知ってしまうとクセになりそうなのはきみみたいだ」
カールトンがわざとらしく咳(せき)払いをした。
「そういえばカールトン教授、先日、あなたの新しい論文を拝見しましたよ」
エドガーはさっと話題を変え、きまじめな視線をカールトンに向けた。
「ほう、博物学に興味がおありですか」
「自然は突き詰めるほど奥が深い。まさに驚異という言葉は博物学のためにあると驚かされることばかりです。結晶構造についての分析など、非常に興味深く拝見しました」
語りはじめれば彼は、いとも簡単にカールトンの気を引いてしまう。学者を相手に、教えを請(こ)う若い学徒のような立場でいながら、的確な返答と質問で会話を盛り上げる。
それにしても、エドガーにとって惹(ひ)きつけ丸め込むのが得意なのは女性ばかりではないらしい。たぶん、どんな種類の人間にも、自分を好意的に見せる方法を知っている。
処世術(しょせいじゅつ)を心得ている彼らしいといえばらしいが、本当に論文には目を通しているようだし、娘から見ても学問バカの父親を懐柔(かいじゅう)するには、これ以上ない的確さだ。しかし。
ちょっと父さま、そんなにうち解けないでよ。と言いたくなるほどだ。
「そういえば教授、古い文献で見かけたのですが、妖精の卵(たまご)と呼ばれる石があるとか」
エドガーが言ったその言葉に、リディアは引きつけられた。
妖精卵といえば、男爵令(だんしゃく)嬢がいなくなった事件にかかわることだ。それもエドガーが、このうえなく疑わしい事件の。
「ええ、そういう呼び方をする石がありますね」
「父さま、その妖精の卵って本物なの?」
「鉱物の話だよ。ロマンティックな呼び名だが、ちょっとめずらしい瑪瑙(めのう)のことだ」
「瑪瑙って、あれ?」
キャビネットに飾られた、数々の石ころの中に、子供の頭ほどの瑪瑙の原石がある。
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