《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.6
「ドーリスのこと、わたしのせいだって言うの? わたしが何かしたってこと?」
「そうは言ってないけど……」
「わたしのせいじゃないわ! あの子が約束を破ったからよ。妖精卵(ようせいたまご)に誓いを立てたのに、破ったから妖精を怒らせたんじゃない。怖がりのくせに、だから怯(おび)えて過ごさなきゃならなくなって、身体をこわして田舎(いなか)へ引きこもったまま人に会えなくなったのは、わたしには関係ないわ!」
どうやらロザリーは、本気でドーリスが田舎で療養していると思っている。男爵(だんしゃく)家が体面上、そう公表しているのを、疑っていないようにリディアには見えた。
だとしたら、彼女はドーリス嬢とはケンカをしただけで、トラブルに巻き込む意図などなく、「いなくなればいい」と言っていたのもそれだけのことなのだろうか。
しかし、ロザリーにつきまとっている妖精はボギービーストだ。彼女には些細(ささい)なケンカのつもりでも、あれが余計なことをしでかす可能性はある。
「でもロザリーさん、ボギービーストは勝手に、あなたや、あなたのまわりにいる人たちをだましたり罠(わな)にはめたりする可能性があるのよ。だから……」
「あなた、わたしがエドガーと親しくするのが気に入らないのね」
リディアには、いきなり話が飛んだようにしか思えなかった。
「は?」
「だから、わたしを侮辱(ぶじょく)するためにそんなこと言うんでしょ」
「あたしは、あんなタラシになんか興味ありません!」
「ムキになるところがあやしいわ」
もうこうなったら、まともに妖精の話なんかできない。
エドガーの方をちらりと見るが、彼は仲裁(ちゅうさい)する気なんか少しもなさそうだった。むしろ、けしかけたわね、とリディアは憤慨(ふんがい)する。
自分をめぐる女の子のケンカをおもしろがっている。
しかしリディアには、彼女とケンカをする理由などない。
逃げようとするが、回り込んでまでロザリーは引き止めた。
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