《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.7
どう考えても、従者にしてみれば迷惑なほどいいかげんな主人だ。しかしレイヴンにとっては、唯一の、すべてを受けとめてくれる大切な主人なのだ。
レイヴンの中にいるという、殺戮(さつりく)の精霊を受けとめ、鎮(しず)めることに成功しているのはエドガーだけだというから。
だからこれ以上エドガーを否定するのも、主人を信頼するレイヴンに悪いような気がした。
「いいでしょうよ。賭け金を決めてちょうだい。でも遊びでキスなんかされたら、あたし、あのすました顔をぶん殴(なぐ)るわよ」
レイヴンは、深い緑の瞳をこちらに向けたままわずかに口の端を上げただけだったが、それで賭(かけ)は成立した。
よく考えてみれば、リディアが勝つにはキスされなければならないのだが、そう気づいたのはもっと後のことだ。
とにかくそのときは、エドガーを試してやろうという気分にもなっていた。
本当のところ、彼がリディアのことを、軽く見ているのかそうでないのか、確かめたい気持ちがあったのだろう。
「それから、落とし物です」
レイヴンが、手の中に収まるほどの白っぽい玉をテーブルに置いた。
「さっきのサロンに落ちていました」
自分のではないと言いかけ、口をつぐむ。
縞瑪瑙(しまめのう)だと気づいたからだった。
純白ではなく、淡いグリーンの葉脈(ようみゃく)に似た縞目がある。
ペパーミントリーフの縞瑪瑙? 振ってみれば、中で水音がする。急いで窓辺に持ち寄り光に透かせば、薄く削られた部分から黒っぽい水がかすかにゆらめいて見えた。
まさか、〝妖精の卵〟?
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