《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.8
ニコはリディアがいなくなった仕事部屋に忍び込むと、そおっとクローゼットの扉を開け、奥に隠しておいた箱を静かに取りだした。
耳を押しつけると、箱の中からかすかなつぶやき声が聞こえる。箱の中にしまっておいた缶詰が、なにやらぶつぶつ言っているのだ。それはまだ、ニコが聞き耳を立てていることに気づいていない。
(ローズマリー、セージにバジル、いい香りのするハーブがたっぷり)
聞き取りにくい声だが、歌うような抑揚(よくよう)で、そう言っているのがわかる。
(樽(たる)いっぱいの、ローズマリーにうずもれた寝床、ロンドンにあんなすてきな場所があるなんて)
(ああでも、だまされた。缶詰工場? ハーブの寝床でうたた寝したら、いつのまにやら缶の中)
「なんだおまえ、居眠りしてる間に缶詰にされたのか」
ニコがつい口を出してしまうと、それはぱたりと黙り込んだ。
ハーブ漬け魚の缶詰工場で、ハーブにうずもれて眠り込んでいたらしいこいつは、妖精のたぐいだろうが、そのまま缶詰に閉じ込められてしまったようだ。
心地よすぎる香りと眠りに時を忘れたのか、えらく間抜けだと思う。が、ニコも妖精族であるからには、ひとつのことに夢中になると、ほかのことに注意がまわらなくなるのは日常|茶飯事(さはんじ)だ。もちろん妖精族は、自分がそんなふうに抜けているなどとはけっして考えない。
「それにしても、だまされたって誰にだ?」
缶詰の中身は、しまい込まれてほうっておかれた苛立(いらだ)ちと、ニコに対する警戒(けいかい)心から、反抗的に缶をゆすった。
「だからさ、冷静に話をしようぜ。おまえは何者なんだよ。言えば開けてやるって言ってるだろ」
ニコはこの間から、同じ質問をくり返している。缶詰の中身は、最初しゃべろうとしなかったが、クローゼットにしまい込まれて埒(らち)があかないからか、かすかな声を出すようになっていた。
しかし声が聞こえにくいのは、缶に封じ込められているせいだ。
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