《伯爵与妖精》卷二第三章牛奶糖与橘子3.9
伯爵家のためには、フェアリードクターが必要だと思う。それだけでなく、彼女に興味や魅力を感じているのはたしかだが、もちろん、住む世界が違うのもわかっている。
意外性があって不思議で、話していると楽しいから追いかけたくなる。たぶんそんな感覚なのだけれど、住む世界が違うと知っていながら何の葛藤(かっとう)もないなら、軽い気持ちなのも事実だろう。
「もう少し、リディアがうち解けてくれるといいんだけどなあ。ニコ、どうすればいい? きみならリディアのこと、よく知ってるだろう?」
こんなふうに、猫に問いかけてみるのも、ゲームみたいな軽い気持ちだ。
ギャングとうち解けられるかよ。とでも言うように、彼はしっぽをゆらゆらさせた。
それとも、ただで教えられるかよ、と言ったのだろうか?
思いつき、エドガーは執事(しつじ)を呼ぶ。
用件を聞いて出ていった執事は、銀のトレイを持って戻ってきた。
脚のついた銀器に、あまい香りのする菓子が乗っかっていた。エドガーはそれを、ニコの方へ押し出した。
「フランスから届いたばかりの、リキュール入りのチョコレートだ。きっと気に入ると思うけど?」
やや身を乗り出して、ニコはその、茶色いまるいものをじっと眺めた。
首にネクタイを結んだ猫が、上品な手つきでチョコレートをひとつ取りあげても、不思議な光景には見えなかった。
口に入れ、味わうように舌の上で転がしていたニコは、恍惚(こうこつ)と目を細める。
「好きなだけ食べていいよ」
「リディアにうそ、つくなよな」
それが彼のアドバイスなのだろうか。
銀器を両手で、いや両前足で、かかえるように引き寄せたニコは、そう言ったような気がした。
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