《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.4
またケケケと、ボギービーストは意味深(いみしん)に笑う。耳まで裂(さ)けた口をさらに醜(みにく)くゆがませて。
「ねえ、リディアさん、何かいるの?」
不安げにドーリスが身を寄せた。
「ええ、ロザリーにつきまとってる妖精です。見えませんか?」
「わたしには……。見たことがないんです。ときどき、そのへんにあるものを動かして見せてくれたけど」
(そいつ、ニブい女だぜ。こうしてオレさまが姿を現してるのに見えねーんじゃな。男爵令嬢の方が、あの方のためには役に立ちそうだったが、しかたねえから従姉(いとこ)の方を使うことにしたんだ)
「あの方って、おまえの本当の主人ね。……それって、グレアム卿なの?」
(は? バカにすんなよ。どうしてオレさまが人間なんぞに仕えるんだ?)
人間じゃない。ボギービーストの主人は。
水入り瑪瑙(めのう)を手に入れたロザリーのもとへ現れた。
こいつの主人は、まさか、瑪瑙に封じられたという。
「……悪魔……?」
チッチッとそれは舌を鳴らす。
(あの方はそう呼ばれるのが大嫌いさ。あんな連中と一緒くたにしてもらいたくないね。悪魔なんかより偉大な、霧男(フォグマン)さまさ)
フォグマンが、ロザリーの水入り瑪瑙の中に……。
リディアが驚いている様子に満足し、調子に乗ったボギービーストは、ぺらぺらとさまざまなことをまくし立てた。
(あの方をあんな石の中に閉じこめるなんて、ひどい話だよ。そのうえ石の持ち主は、これまでずっと、あの方に声さえ出させない高貴な血筋だ)
リディアの父が書いていたように、貴族の血が〝妖精の卵〟を守ってきたということだろうか。
中に閉じ込められた魔物の力が、わずかにももれないように守ってきたのが貴族の血筋。
ウォルポール男爵(だんしゃく)家のような新しい貴族ではなく、中世からの古い血筋には、潜在的に魔を寄せつけない力があったという。
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