《伯爵与妖精》卷二第四章高贵的恶魔4.6
ロザリーが、あの瑪瑙を持っているのを知るまでは。
彼女とはじめて会ったのは、とある貴婦人が主催するお茶会の席だ。妖精卵の占いに使うガラス玉を子供だましのおもちゃだと言って、ロザリーは女の子たちにあの瑪瑙を見せていた。
あのときエドガーの記憶の断片が、急にひとつに結びついた。
縛られたまま朦朧(もうろう)としていた冷たい部屋。不快な悪夢にさいなまれ、霧男(フォグマン)の気配(けはい)に怯(おび)えた夢うつつ。幻かと思っていたふたりの女の子。いつも持ち歩いていた水入り瑪瑙を、手放したことを思い出した。
そして彼は気がついた。ロザリーがあのときの少女なら、エドガーを苦しめた人物は、彼女の身近にいることになるのだ。
そこからエドガーは、自分の誘拐(ゆうかい)にかかわった人物として、彼女に近いグレアム卿(きょう)に目標をしぼり込み、調査を進めたのだった。
ロザリーがグレアムの悪事を知らないということは、すぐにわかった。ただのわがままで天真欄漫(てんしんらんまん)なお嬢(じょう)さまだ。
そうと知っていたから、リディアの言うボギービーストの存在も、エドガーにはあまり関心がなかった。グレアムとそれらが無関係なのは間違いないのだ。
だからリディアが帰ってこないことも、何かあったとしたらロザリーとの今朝(けさ)のケンカの延長であって、グレアムとは関係はないはずだ。
だが、ロザリーの身辺にはグレアムがいる。リディアがいるのを見つければ、状況は悪化する。
「あの、リディアはまた、危険なことに首を突っ込んでいるんでしょうか」
「大丈夫ですよ。思うに、ちょっとわがままな知人に引き止められているのではないかと」
できるだけ何気ない口調で、エドガーは言った。カールトンが、あまりにも不安そうに彼を見るからだ。
リディアとは似たところを探す方が難しい、痩(や)せぎみでくたびれた風体(ふうてい)の男性は、とぼけた印象に輪をかける丸|眼鏡(めがね)を押し上げ、その奥の瞳をまっすぐエドガーに向けた。
「伯爵、リディアはあなたを信用しています。フェアリードクターは、時には危険な仕事ですが、伯爵家のために働くことを選んだ娘を、守ってやってくれますか」
学者らしい鋭い観察眼は、とっくにエドガーがどういう人間か見抜いているのだろう。
今、リディアが事件に巻き込まれつつある可能性にも気づいている。
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