《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.1
「助けに来てやったぞ」
「もしかしてニコ、さっきから窓のところで、あたしがいじめられてるの見てたでしょ」
垂れ下がったしっぽに、リディアは気づいていた。なのにいつまでたっても何もしてくれないニコに、業(ごう)を煮やしていたところだ。
ニコは、意味もなくヒゲを撫(な)で、ネクタイを直した。言いわけを考えているのだ。
「いちおう、チャンスをうかがってたんだよ」
ボギービーストが小さくなったから、ようやく追い払えると判断したわけだ。
「まあいいわ。……ありがと」
それでもまあ、見つけてくれたことにリディアは感謝している。
「ここがよくわかったわね」
「カールトン家の|家付き妖精(ホブゴブリン)が、ビスケットのお礼にあんたのこと見守ってたんだよ。家にボギービーストが現れたから、気になってついていったらしい」
「そう、母さまのビスケットはさすがに妖精好みなのね」
「で、あんたの身体はどうしたんだよ。どこにあるんだ?」
「それが、どこかわからないところへ運ばれちゃったの」
リディアが瓶詰めにされて間もなくのこと、倉庫へ男が数人入ってきたのだった。
その中のひとりはグレアム卿(きょう)で、ドーリスを連れ出しに来たらしかった。
必死にリディアを起こそうとしていたドーリスを見つけ、いるはずのない少女の存在に、彼らは少々面食らった様子だったが、ほかに誰もいないことを確認すると、ドーリスを縛りあげて運んでいった。
すぐ外の河岸から小舟に乗せたらしく、水音と船のきしむような音が聞こえていた。
リディアは瓶の中で、意識のない自分を覗(のぞ)き込むグレアムの様子をうかがっていた。
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