《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.2
「なるほどね」
話を聞き終えたニコは、腕を組んでつぶやいた。
「で、グレアムって奴があんたを売りつけようとしている、あの男って誰だ?」
「知らないわよ」
言いながら、リディアはふといやな予感を覚えた。
八年前、ここから売られたエドガー。つまりグレアムは、エドガーを奴隷(どれい)にしていた人物とつながっている。たぶんグレアムは、エドガーのほかにも同じ人物に白人奴隷を都合しているのだ。
もしかしたらリディアも、「プリンス」とやらに売られてしまうのだろうか。
「どうしよう、ニコ……」
「シッ」
リディアの入った瓶を手に、ニコが物陰に隠れる。表の扉が開く音がしたからだった。
濃い霧とともに、人の気配(けはい)が流れ込んでくる。靴音が倉庫の中に響く。
ランタンの明かりで注意深く周囲を照らしながら、人影は奥へと入ってきた。
「誰もいないようです」
「遅かったかな」
エドガーの声だった。レイヴンと一緒だ。
捜しに来てくれたのだろうか。
けれどこんな姿では、目の前に出ていくわけにもいかない。
リディアはニコと、物陰から覗き見た。
「グレアム卿が来たんでしょうか」
「レイヴン、ハンカチが落ちている」
それをレイヴンが拾い上げた。
「D・Wと刺繍(ししゅう)がありますね」
「ドーリス・ウォルポール?……ここはグレアムの倉庫だというし、ドーリス嬢も閉じこめられていたってことか?」
ちょっとまって、とリディアは考える。彼らは、何の疑問もなくグレアムの名前を出した。ドーリスが叔父(おじ)に監禁(かんきん)されたと気づいていたのだろうか。
いったいいつから? そして知っていたのなら、どうして妖精話を取りあげてまでリディアを巻き込んだのか。
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