《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.5
「なら伯爵、時間のかからない方法を考えてくれよ」
エドガーが考え込んだ時間は、ごくわずかだった。
「わかった、奥の手を使おう」
「そんな手があるならもったいぶるなっての」
「使えるかどうか、考えながらやるしかないけどね」
執事(しつじ)を呼んだ彼は、外出を伝える。何か走り書きしたメモを手渡す。
「それからトムキンス、ここへ来るようにとレイヴンに使いをやってくれ」
フロックコートの内側に、エドガーがピストルをしのばせるのを眺めながら、リディアは苦しい息をついた。
自分が感じている息苦しさと、そのためにエドガーに無謀(むぼう)な判断をせまっていることへの息苦しさだ。
こんなふうに彼は、いつでも決断しなければならなかったのか。
もしかしたら人の命を左右する決断をひとりで下し、最善の方向へと導かなければならなかったのかもしれない。
「リディア、しっかりしろ。必ず助けるから」
ガラス瓶を手にし急ぐ彼の横顔は、戦場に赴(おもむ)く騎士さながら、灰紫(アッシュモーヴ)の瞳に火の色が勝(まさ)る。
この言葉通り、最善の結末がおとずれるとは限らない。現実には彼は、多数の仲間を失っている。
きっと幾度(いくど)も、言葉通りにはいかなかったことだろう。それでも自分がそうやって、先頭に立たねばならないという覚悟が、彼にそう言わせるのだ。
うそになるかもしれない約束を、自信たっぷりに言ってのけるだけの覚悟を持っている。
きれいな瞳の色、そしてきれいな人。
女の子がまいってしまうような、そういう種類の魅力とはちがう、うわべのそつなさや口のうまさともちがう、心の芯(しん)から惹(ひ)きつけられるような力を、ほんの一瞬だけれど彼の中に見たような気がしている。
根っからの貴族。無慈悲(むじひ)な悪党。軽薄(けいはく)な女たらし。カリスマ的な指導者(リーダー)。
あなた、本当は何者なの?
どれが本当のエドガー?
本当のあなたなんて、少しも知らない。そんなあたしのために、どうして必死になるの?
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