魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第四章4.5
「げっ、やめろ、おいっ!」
「エドガーさま、何をするんですか!」
アーミンが止めようと、エドガーに抱きついた。すんでの所でニコは逃れ、マントルピースの上に飛び乗る。
アーミンと床に倒れ込んだエドガーは、顔だけをニコの方に向けた。
「冗談だよ、ニコ」
「そうは思えねえな、おぼえてろよ!」
猫はさっと姿を消したように見えた。暗がりに紛れ込んだだけだろう。
エドガーはため息をつく。床に座り込んだまま、まだ彼に抱きついているアーミンの短い髪を撫(な)でた。
顔をあげた彼女は、悲しげにエドガーを見つめた。
「あなたはときどき、わざと悪人になろうとする。やさしさや思いやりの気持ちを、振り捨てようとするかのように」
「おまえたちを守るためだ。非情でなければ生き残れない」
「わたしやレイヴンだけでなく、どうかご自分も大切にしてください」
「わかってるよ」
アーミンの唇が彼に触れた。それは一瞬で離れたが、彼女はまだエドガーに身体(からだ)を寄せたままだっ。た。
「……すみません」
「あやまることはない」
「エドガーさま、宝剣をあきらめることはできませんか?」
迷った末に、口にした言葉だとわかる。けれどもエドガーには、アーミンが弱気になっているだけに思えた。
彼女がこれ以上、人を犠牲(ぎせい)にしたくない気持ちはわかるけれど、今さら迷うわけにはいかないのだ。
「僕たちが自由を得るには、あれしかないんだ。あきらめたら、奴から逃げ切ることはできないよ」
「どのみち、手に入れられないかもしれません。そのために罪を重ねるよりは……。わたしにはどうしても、あの方から逃げ切ることはできないような、それが自分の宿命のような気がするんです」
「プリンスは万能じゃない。おまえはもう奴の下僕(げぼく)ではなく、僕の大切な仲間なんだ。昔のことなんて忘れろ」
そっと身体を離したアーミンは、苛立たしげに眉根(まゆね)を寄せた。
「なら、わたしを抱いてください」
切羽詰まった表情に、エドガーは戸惑う。
「わたしのすべてを、あなたのものにしてください。恋人になりたいなどと望んでるのではありません。主(あるじ)があなただと、確信したいだけ。でないと不安なんです。いつまでも、プリンスに鎖(くさり)でつながれているようで」
「おまえはモノじゃない。もう奴隷(どれい)でもない。そんなことをしなくても、主人が僕であることに間違いない」
「そうでしょうか。わたしがプリンスの女だったから、穢(けが)らわしいと感じているんじゃありませんか?」
「バカなことを」
「だって、いつでもこんなに近くにいるのに、わたしの気持ちに気づいているくせに、知らないふりをする……」
エドガーは、アーミンを抱きよせていた。
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