魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第五章5.5
「まちたまえ、リディアが向こうにいるんだぞ」
「わかってますよ教授。だがあいつは、お嬢さんを殺してしまうわけにはいかない。極悪非道の強盗でも、宝石を見つけるまではね」
「ゴッサム。カールトンさんに何を吹き込んだか想像はつくが、きみこそ宝石のためなら極悪非道だって、すぐにばれてしまうようなことはやめた方がいいよ」
薄く微笑(ほほえ)んで相手をにらみつけるとき、エドガーは、鋭くも優雅な彼らしさが顕著(けんちょ)になる。決闘の場面だったなら、この瞬間に勝負が決まってしまうのではないかと思えるほどだ。
「早く、彼女から離れろ」
苛立(いらだ)った声を出すハスクリーを、カールトンが不安げに見た。脅(おど)してみせるためにか、ハスクリーは引き金に指をかける。
「おい君、やめてくれ!」
エドガーに向けられた銃口(じゅうこう)は、すぐそばのリディアにも危険なものだ。それを止めようと、カールトンがハスクリーの腕をつかむ。
「アーミン、リディアを頼む」
エドガーがささやいた。
「はい」
簡潔な返事とともに、リディアはアーミンの腕に引かれた。エドガーがステッキから剣(レピア)を引き抜く。同時に、銃声が鳴る。
振り返ろうとしたが、アーミンが茂みへとリディアを引きこみ、向こうで何が起こっているのかわからない。
しかし、別の小道へ出たとたん、アーミンは急に立ち止まった。
リディアをかばうようにして、数歩後ずさるが、ハスクリーの弟たちにすっかり取り囲まれていた。
リディアは父とともに、城の一室に閉じこめられた。
乱暴にも連中は、建物の窓を壊して城に侵入(しんにゅう)し、一画(いっかく)に陣取った。どうやら逃れたらしいエドガーとレイヴンを追いつめつつ、〝メロウの星〟を盗み出すつもりらしい。
ハスクリー、いやゴッサム兄弟にだまされ、ここまで連れてこられることになったカールトンは、意気消沈(いきしょうちん)のため息をついた。
「つまりは私は、ゴッサムに利用されたのか」
「父さま、ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
「いや、おまえだって巻き込まれたんだ。すまない、私の宝石の研究が、こんなことを引き起こすなんて」
そもそもの発端(ほったん)は、ゴッサムがエドガーを研究材料にしようとしたことか、それともエドガーがゴッサムを利用しようとしたことか。しかしもう、そんなことは問題ではなかった。
リディアは、長椅子(ながいす)に横たわるアーミンのそばに身を屈めた。
リディアと父は、どうせ抵抗もできないだろうと手荒なことはされなかったが、アーミンは殴(なぐ)られ、両手を縛られ、気を失っている。
縄(なわ)をほどいてやりたいが、勝手なことをすればアーミンを痛めつけるとハスクリーは言った。
リディアはハンカチで、彼女の切れた口元の血をぬぐう。
「それで結局、さっきの青年は……」
「ち、違うのよ父さま、あれはひどい悪ふざけで、あたしはただ、フェアリードクターとしての依頼を受けただけ」
「そうなのか。本当に駆け落ちではないのか?」
「当たり前でしょ。あたしはそんな娘じゃないわ」
ほっとしたように、教授は気の弱い笑みを浮かべ、ずり落ちかけた丸|眼鏡(めがね)を押し上げた。
「強盗だといううえ、誘拐(ゆうかい)犯であるはずの男に、お父さんと呼ばれるのは心臓に悪いな。おまえが本気なら、反対するのもどうしたものかと悩んでしまったよ」
「やだ、父さま。悪党でもあたしがよければいいの?」
「どこかよほど、いいところがあるのだろうかと思ってね。いいのが顔だけでは困りものだが」
「外見だけで選んだりするもんですか」
「ただ気になったのは……、彼は貴族だね」
「ええ、本人はそう言ってるし、言葉も何もかもそう見えるわ。でも父さま、貴族が強盗より問題なの?」
「ときどき彼らは、強盗よりもたちが悪い。……私の偏見(へんけん)かもしれないがね。でもまあ、さっきのが単なる悪ふざけなら関係ないが」
「本気です」
いつから気がついていたのか、アーミンが薄くまぶたをあけ、つぶやいた。
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