魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第6章6.1
彼女のためにと、青騎士|伯爵(はくしゃく)の宝剣を求めたことが、彼女を追いつめてしまったのだとしたらあんまりだ。
ふつうの娘として、髪をのばして着飾って笑っていられるようにと、エドガーは望んでいたのに。
「泣いてくれるのですか、姉のために」
レイヴンがそう言って、リディアは自分の頬(ほお)を伝う涙に気がついた。
「あなたを、殺そうとしたのに」
殺すつもりだったのだろうか。ふとそう、疑問に思う。最初からそう考えていたなら、アーミンは、リディアにエドガーの計画を話す必要はなかった。ならば、彼女があの話をしたということは、リディアが生きて宝剣のありかへ到着するそのときを考えていたことになる。
リディアを道連れに飛びおりようとしたけれど、本気で殺すつもりなら、レイヴンの動きの早さを知っているからには、もっと確実なやり方があったかもしれない。
このままだと、宝剣は手に入らず、エドガーもリディアも死ぬかもしれない。そしてアーミンはこれ以上エドガーを裏切れず、プリンスからも逃げ切れなかった。
だから死を選んだ。
彼女の唯一の望みは、エドガーがリディアを犠牲(ぎせい)にすることなく、気持ちをあらため、たとえ宝剣を得ることができなくても、新たに自由になれる道を見つけてくれること。そうではなかっただろうか。
そのために、いまだエドガーをプリンスにつないでいる自分という糸を、断ち切って見せたのではないか。
「……あたしは、たった数日しか彼女のことを知らないのに。わかったようなつもりになってるだけかもしれないけど……。あなたの方がずっとつらいはずなのに」
「つらい……、そうなんでしょうか。よくわかりません。私には、自分が何を感じているかさえ、気づくのは難しくて。だから姉のことも、唯一の肉親だという感覚しかなく、それはそばにいて助け合うのが当然の、けっして失われることのない存在だと思い込んでいたような気がします。彼女にも悩みや葛藤(かっとう)があって、苦しんでいたのに、私はいつも、自分のことで精一杯だった」
相変わらず淡々と、冷静すぎる言葉でレイヴンは語った。
「いいえ、わかっているはずよ、あなたにもちゃんと感情があるわ。彼女を思って手を離したのなら、誰よりも深く彼女を愛して、傷ついてる」
深い緑の瞳が、リディアに向けられる。やっぱり人を不安にさせる暗い瞳だと思うけれど、今は人を射すくめるような鋭さは感じなかった。
「リディアさん、姉はあなたに、何か言いませんでしたか」
「な、何かって?」
「……いえ、いいんです。あなたの胸にしまっておいてください」
エドガーの計画を、アーミンがリディアに話してしまったかもしれないと、レイヴンは気づいているのだ。
けれども彼は、エドガーのしもべ。主人が罪を犯すことを苦慮(くりょ)するよりも、望みをかなえることに尽力(じんりょく)しようというのだろう。
それがリディアを罠(わな)にはめることだとしても。
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