《伯爵与妖精》卷二:小心甜蜜的陷阱第一章1.1
「わたしを出し抜こうってつもり?」
「そんな」
「ちょっと、わたしの目が見られないの? あなた最近、隠し事してない?」
「何も、隠してなんかないわ」
少女はあわてて否定した。
「いいこと、あなたはわたしに隠し事なんかできないのよ。妖精に誓ったのを忘れてないでしょうね」
「もちろんよ」
「なら言いなさい。この間からこっそり書いてた手紙は何?」
「み、見たの!」
「何よ、わたしが見ちゃそんなに困るものなの!」
ということは、さすがに中身は見ていないのか。少女はほっとするが、その様子がさらにロザリーを怒らせた。
「やっぱり、隠し事してるじゃない!誓いを破ったら、妖精に罰を受けるってわかってるの?」
ロザリーとふたりで、妖精に誓いを立てたことを思い出す。お互いに親友として、隠し事をしないという約束。破ったりしたら、霧男(フォグマン)が罰をもたらすのだと彼女は言った。
「でもロザリー、霧男って本当にいるのかしら……」
「いるわよ! もう知らない、ひどい目にあったって助けてあげないから。あなたなんて、霧男にさらわれていなくなっちゃえばいいのよ!」
霧男、ロンドン子なら誰でも幼い頃に聞かされているだろう霧の妖精。おとぎ話を信じている年頃ではないが、怖いと思うのはどこかで信じているからなのだろう。
霧男につかまった、かわいそうな子を見たことがある。幼いころの断片的な記憶だが、夢ではなかったと思う。そのせいで、いまだに霧男という言葉は、彼女にとって暗闇と死を連想する不安な気分そのものだった。
霧男にさらわれたら、どうなってしまうのだろう。
去ってしまう従姉のオレンジ色の髪を眺めながら、彼女は霧の中にひとり、置き去りにされてしまうような孤独を感じていた。
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