《伯爵与妖精》卷二第五章隔着玻璃的爱恋5.4
ガラス越しに、彼のシャツに頬(ほお)を寄せる。生身だったら絶対にできないこと。
不思議と、彼のぬくもりが伝わってくるような気がしていた。
魂だけになっても眠ってしまうものなのか。
気がつけば、瓶の中まで朝日が射し込んでいた。
どういうわけかリディアは、クッションやシーツに瓶ごとくるまっているような状態だった。無意味だとわかってるのに、無駄(むだ)なことに神経を注ぐものだ。
バカバカしいけれどもほのぼのした気持ちにさせられながら、瓶の底で横になっていたリディアは起きあがろうとし、様子がおかしいのに気がついた。
身体が重くて動かないのだ。
もちろん本当の身体ではないが、鉛(なまり)になったかのようで、半身を起こすのさえやっとだ。ガラスの壁面にもたれかかり、リディアは頭痛とめまいをこらえた。
不意に自分がかき消えてしまいそうな不安を覚える。人にとって魂だけという状態はとても不安定なものだから、この身に何か起こっているのだろうか。
部屋の中を見まわすが、リディアの視界の範囲には誰もいない。
「エドガー、……どこにいるの?」
「おいおい、どうした? えらくあいつに頼ってるな」
灰色の猫が、ぬっと目の前に顔を出した。
「ニコ」
ゆうべはニコは、自宅へ戻っていた。リディアは知人の家でパーティに巻き込まれ酔いつぶれて泊めてもらうことになったとかうまくごまかしながら父に説明するためだった。父に心配をかけたくなかったし、こんな姿を見せるわけにもいかない。
「いくらあの伯爵(はくしゃく)さまでも、身体がここにないあんたに手出しはできないはずだけどな」
「変なこと言わないで。……ちょっと気分が悪くて、どうしようって思っただけ……」
「気分が? リディア、それはまずいぞ」
ニコは深刻そうに前足を組んだ。
「何がまずいって?」
部屋へ入ってきたのはエドガーだ。瓶の底でぐったりしているリディアに気づき、心配そうに覗き込んだ。
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