魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第二章2.3
それからは船室を出るたび、アーミンがそばにいた。
気さくに話しかけてくる彼女には、レイヴンのような得体の知れなさはないが、それも見せかけだけかもしれない。なにしろあの、エドガーの使用人だ。
「リディアさん、今日は日差しが強うございますわ」
ひとり甲板(かんぱん)へ出たリディアに、日傘をさしかける。
男装のメイドに興味の視線を向ける乗客もいたが、アーミンはまるで気にしていない。
リディアは、日焼けを怖れるほど繊細(せんさい)なお嬢さまではなかったが、アーミンの白い肌はうらやましく思った。
「この国にはめずらしく、いいお天気ですね」
そう言った彼女の横顔は、どこか異国の太陽を懐かしんでいるように見えた。
「アーミンさん、外国へ行ったことがあるの?」
「アーミンとお呼びください。ええ、わたしは英国人じゃありません」
「そういえば、エドガーもずっと外国にいたって……。それは本当なんですね」
「エドガーさまを信用できませんか?」
「だって、いろいろと……。だいたい最初の出会いが、いきなり後ろから羽交(はが)い締めよ。それになんだか、やさしいのか怖いのか、紳士なのか違うのかわかりにくいし、そもそも本当に伯爵(はくしゃく)なの?」
彼女は、やわらかく微笑(ほほえ)むだけで、主人について言及(げんきゅう)はしなかった。
「それにあの、レイヴンって人。若いのに、まるで表情がないんだもの。エドガーが笑うなとでも言ってるの? そう命じられたら、徹底的に守りそうだわ」
「レイヴンはああいう子なんです。けっして命じられているわけでは。ああでも、エドガーさまの言いつけなら徹底的に守るかもしれませんね」
ああいう子、という言い方に、親しさがかいま見えた。それも、やさしく見守っているかのような間柄(あいだがら)だ。
リディアの疑問を感じ取ったのか、アーミンは言った。
「レイヴンはわたしの弟なんです」
「えっ、でも……」
「肌の色が違うのは、父親が違うせいです。ねえリディアさん、妖精のことなら何でもご存じだとか。彼らの世界へ行ったことがありますか?」
「……ええまあ、信じなくてもかまいませんけど、入り口はどこにでもあるわ。日陰と日なたの境界や、風向きがふと変わる場所、サンザシやニワトコの茂み、シャムロックの葉陰」
「わたしたちの国でも、精霊の存在は信じられていました。もっと恐ろしいものとしてですが。そんな精霊の血を引くといわれる子供が、ときおり生まれる、それがレイヴンなんです」
「え、本当に? じゃあ彼も、精霊が見えたり話ができたりするの?」
「どうなんでしょう。あの子はあまり、他人に精霊の話をしたがりませんので」
人に話したがらないというのは、わかる気がした。リディアだって、黙っていられる性格ならそうしたかもしれない。もっとも彼女は、母のことを忘れないためにも、堂々と不思議な世界に目を向けてきた。
けれどリディアも、幼い頃から妖精の取り換え子だとささやかれてきたものだ。
父にも母にも似ていないし、瞳の色はめずらしいし、ゆりかごの中でひとり何かを目で追ったり、急に笑ったり、もう少し大きくなってからは見えない何かに話しかけながらいつまでもひとり遊びを続けると、子守り役が気味悪がったらしい。
変わり者と呼ばれるのは無視できるけれど、取り換え子と呼ばれるのは、母とのつながりも思い出も、否定されるようでつらかった。
「やっぱり、いやな思いをしたんでしょうね。人には理解されにくいもの」
「そうですね。それにレイヴンの場合は、悪霊の化身です。もともと忌まわしい存在として、世間からは遠ざけられる宿命なのですから、姉であるわたしでさえも、すべてを理解してはやれません。……追われるように故郷を捨て、けれどもわたしたちは、エドガーさまのそばに、ようやく居場所を見つけた」
「……妖精国の伯爵だから?」
「伯爵であろうとなかろうと、哀しい方だからですよ」
哀しい? リディアには、傲慢(ごうまん)で強引で、他人も自分もゲームの駒(こま)みたいにあやつって、危険な駆け引きや宝探しを楽しんでいるように見える。
首を傾げたリディアに、アーミンは赤い唇をゆがませた。微笑みとも哀しみともつかない表情でつぶやく。
「あの方のやさしさもきびしさも、哀しみの一部。だからわたしたちの哀しみを受けとめてくれる。妖精の国が、あの方に本当の安らぎをもたらしてくれればいいのですけれど」
本当の安らぎとは、どういう意味なのだろう。
青騎士卿の子孫が帰るべき場所だからか、それとも本物ではないからこそそう願うのか、リディアにはわからない。
エドガーと、レイヴンとアーミン。彼らがどういう人たちなのかも、多様な面を次々に見せられ、その像がますますゆらいだ。
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