魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第五章5.3
「ねえ、怖くないの?」
「何が?」
「宝剣を盗もうとしたニセ伯爵は、メロウに海に引きこまれるのよ。みんな死んでるって、トムキンスさんが言ってたじゃない」
「僕に言わせれば、間抜けな連中だ。宝剣を泥棒から守るためにはりめぐらされた罠(わな)に引っかかったんだろう」
「メロウのせいじゃなくて、罠だって言うの? それであなたは、引っかからない自信があるの?」
彼女の方を見て、にっと笑う。
「もしものときは、僕のために悲しんでくれる?」
「は? そういうことはアーミンにたのみなさいよ」
「アーミン? なぜ?」
「こ……恋人なんでしょ」
なんだか責めているみたいな言い方になってしまった気がして、リディアは恥ずかしくなってうつむいた。
「違うよ。安心して」
「どうしてあたしが安心しなきゃいけないの!」
「単なる僕の希望」
なんなのよ、とリディアはつい、眉間(みけん)にしわを寄せる。
「あのね、人をからかうためにそういうこと言うのやめてくれない」
「からかってるつもりはないけど。なら話題を変えよう。きみの理想のタイプは?」
ちっとも話題、変わってないじゃない。
苛立(いらだ)つのは、エドガーのリディアに興味があるかのような発言を、単なる軽口だとわかっているのに、気持ちが動かされそうになることだ。
お世辞でさえ、リディアには縁がなかったからだろうか。
「まじめで正直な人。……恋人じゃないのに、抱きしめたりキスするなんて最低」
「ふうん、もしかして、見てたんだ」
墓穴(ぼけつ)を掘って、リディアはますます赤くなった。その様子を彼はおかしそうに見ていたが、それ以上からかおうとはしなかった。
ゆっくりと、庭園の小道を進む。
「アーミンは大切な仲間なんだ。彼女が幸せでいられるよう、何でもしてやりたいと思っている」
まっすぐ前を見つめる横顔は、いつになく真剣だった。
恋人ではないという。でも特別なんだ、とリディアにもわかる。ふざけてからかう相手ではなく、抱きしめるのも、最低なんて言ってしまえるような軽々しい意味じゃない。
やっぱり彼らのことは、リディアの少ない経験も、想像力も及ばない。妖精が見えても、人と接するのが苦手だった彼女には、当然のことかもしれなかった。
「そう、特別な人なのね。あの、覗(のぞ)いてたわけじゃないのよ、部屋の前を通りかかったから……。ごめんなさい、あたしがとやかく言うことじゃなかったわ。あたしには、あなたのことはちっともわからないけど、でもたぶん、あなたのそばにいる人は幸せね」
遠くを見つめながら、しばし考え込んでいた彼は、そのままの表情をゆっくりリディアの方に向けた。
「きみは、羽でもあるの?」
「え?」
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