双语阅读:【日本经典小说连载】东京塔(221)
东京塔这部小说从“我”一点点长大,一直写到“我”目送着母亲因病去世,各种生活细节每每令人感同身受,因而赚取了读者大把的眼泪,也当之无愧地成了哭泣小说的首席代表。
「病院から出してもろうた紹介状をね、こそっと開けて見たんよ。もう、わかっとったけんど。やっぱり、そうやった……」
「……。……。でも、また治るよ。手術はせんといけんまもしれんけど、また前みたいに治るよ」
「もう、手術はしとうない……」
「そう言うたって、せにゃいかんのやから」
「あんたも、なんぼ言うでも聞きゃあせんけど、ちゃんと病院に行って、一回精密検査してもらいなさい。いっつも胃が痛い痛いち言いよろうが。不規則な生活しよるけん、ちゃんと診てもらわんといけんよ」
「うん、行くよ。こないだも行ったやろうが」
「あそこの先生は丁寧でよかろうが」
「……。そうやね」
「オカンが入院しとる間、ちゃんとパンにエサをやらんといけんばい」
「わかっとる」
「動物はものが言えんのやから、ちゃんと気を付けて見てやらんといけんのよ」
「うん……」
「小屋の掃除もしてやりなさいよ」
「うん」
「それとね」
「なん?」
「オカンになんかあったらね、棚の上に箱があるけん、それを開けなさい」
「なんね?」
「今開けたらいかんよ」
「なんね、これ……」
お歳暮でもらった蒲団カバーの空き箱。ガムテープでフタが開かないように閉めてある。
のし紙のついたままの箱。そののし紙の隅にマジックこう書いてあった。
"オカンが死んだら開けて下さい"。
大地震。火星人襲来。地球最後日。子供の頃に持っていた本に細密画で書かれた恐れるべき恐怖。その絶望的な運命に悲鳴を上げながら逃げまどう人々。
ボクはそれを読んでも、恐ろしいと感じることが少しもなかった。
日本沈没。隕石の雨。夜明けの来ない夜。
むしろ、そんなことが起こってくれて学校も、お屋敷も、お金も、みんな滅茶苦茶にしてくれればいいのにと思っていた。
本当に訪れるのかどうかもわからない恐怖。ボクはそんな当所もない恐怖を恐ろしいと感じることがなかった。
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